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現実だったらいいのに.
袴,スーツときらびやかな正装に身を包んだ同級生達には,違和感しかなかった.あいつも,あの子も,いつもの違う誰かに見えた.
いつもの違うのは,クラスメイトだけではない.造り花で飾られた教室は,なぜかいつもより懐かしく感じた.鮮やかな黒板アートは,昨日,俺が放課後に描いたものだ.クラスメイトが絶賛するたびに,なんだか照れくさくなってしょうがない.
今思えばこの3年間,長かったにしろ短かったにしろ,俺は後悔しか残っていない.最後の最後まで君と交わす言葉は少なくなるばかりだったし,会うことだってなかった.そして今ここに君はいない.いるのは,君が好いた人,アイカだけ.君が教室に来るのを今か今かと,恥ずかしげに待っている.
なぜか俺は心の中で,君が来ないことを願った.
しかし,俺の願いとは裏腹に,見慣れた高身長が,教室に足を踏み入れた途端,目線は一瞬にして入口に集った.
――いたのは,シンプルな白黒の袴をまとった君.人だかりでよく見えないが,君がそこにいると思うだけで,顔が赤く火照って行くのを感じた.
クラスメイト「お前,今日来れないんじゃなかったの?」
君は,笑顔のまま,ふとこちらを見て,言った.
カイ「ちゃんと,言わなきゃと思って」
誰に?と囃し立てるクラスメイト達だが,目星はついていることだろう.その答えは,小学生に聞いてもわかるほど,単純だ.
でも俺は,本当に無意味に,自分の名前が呼ばれるのを,高鳴る振動と共に待った.なんて無駄な時間かは,承知の上で.
カイ「 ―アイカに」
期待通りの答えに教室は黄色い声で溢れる.そして,予想通りの答えにもかかわらず,俺の目は涙で潤い始めていた.
ユズ「やっぱそうだよなぁ〜.」
親友が首を頷かせながらこちらへ歩み寄って来たので,俺は慌てて涙を拭う.幸いにも,親友にはバレずにすんだ.お優しいことに,事を悟って,気づかないふりをしてくれたのだ.
ユズ「ずるいよな」
吐き捨てるようにユズは言う.
ユズ「アイツ,お前のこと好きだと思ってた.」
「毎日一緒にいて,いじられてばっかだったけど.修学旅行の班とかだって全部,」
「二人一緒だったってのにな」
拭ったはずの涙がこぼれ落ちてきた.視界が歪んでくる.歪んだ視界で,君を真っ直ぐ見つめたまま,最後に笑ってみせる.
くしゃくしゃになった俺の顔を見たユズは,一瞬動揺を見せたあと,誰にも見られないようにして教室を二人で抜け出した.クラスメイトはまだ衝撃の告白に夢中なので,誰も,気づいてない...
――君以外は.
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ユズと校舎裏に出たあとは,なんとか落ち着きを取り戻し,話せるようになるまで回復した.
俺「あれは,誤解するしかないだろ」
膝に顔を埋めながらも俺が言うと,すぐにユズが共感した.
ユズ「あんな態度とられたらなぁ」
あんな態度...俺は,今まで君とあったことを,一気に思い返していた.
初めて出会ったとき.陰キャの俺と陽キャの君.交わることのない世界戦を超えて来た君は,俺を校外学習の班に誘った.それから君とは話さない日などないほどずっと一緒にいて,いじられて,でもそれが楽しかったんだ.
思い返すたびに,心が落胆していく気がする.そして,一番の恐怖をぶちまけた.
俺「二人は,付き合うんかな」
ユズ「...どうだろうね」
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それから無事に卒業式を終え,君とは挨拶の一つも交わさずに,俺は静かに帰宅した.
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続くことにしといてください