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私の桜の開花予報
だれか教えて
私の桜の――
開花予想を。
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「陽香留」
不意に声をかけると、彼は少し驚いたように足を止めた。
「え、萌々?」
「やっほー、元気?」
おどけて見せる。
そうでもしないと、震えそうな声がバレてしまいそうだったから。
「どうしたの、改まって」
「……なんとなく。顔、見たくなっただけ」
陽香留は「なんだそれ」と、いつも通りに笑う。
その無邪気な笑顔が、今の私には少しだけ痛い。
「そう言えばさ……今度の桜祭り、行く?」
「あー……」
彼は少し言い淀み、申し訳なさそうに視線を泳がせた。
「ごめん。ちょっと用事があって、無理かも」
「……そっか。残念」
「無理かも」という言葉の裏にある、確定した拒絶。
「じゃあ、また今度……行けたら。行けたら、行こうね」
自分でも驚くほど、声が掠れた。
陽香留はそんな私の微かな変化に気づく様子もなく、「おう」と短く頷く。
「じゃ、俺、友達と待ち合わせしてるから」
「……」
「またな、萌々」
駆け出していく彼の背中。
その先には、誰かが待っている。
「……ともだち、か」
彼が強調したその言葉が、心に冷たく突き刺さる。
「どこが友達だよ……ばか」
視線の先で、陽香留が誰かの手を握った。
春の柔らかな光の中で、二人のシルエットが一つに重なる。
「……っ」
視界が、急に熱を帯びて歪んだ。
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教室の喧騒が、遠くの波音のように聞こえる。
「……萌々、大丈夫?」
隣から届く、腫れ物に触れるような声。
陽香留が"あの子"と付き合い始めた。
そんな噂は、とっくに私の心に冷たい雨を降らせていた。
「え、何が? おめでたいじゃん! 陽香留もやっとかー、って感じ…!」
精一杯の虚勢。
頬の筋肉が強張っているのが、自分でもわかる。
でも、こうして笑っていれば、誰も私の心の中の「*枯れ木*」には気づかない。
陽香留の桜は、今が見頃。
誰よりも眩しく、残酷なほどに満開だ。
それに比べて、私の恋は。
咲いた瞬間に散りゆく運命の、実を結ばぬ「**徒花**」。
私の桜の――
開花予想は、もう二度と更新されることはない。
――END――
華恋_karen