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呪術俳優
フィリー
番外編、宿難と虎杖
「闇より出でて闇より黒く、穢れを禊いで、パパラッチを遮断せよ」
現場監督の声と共に、巨大な遮光カーテン——通称「帳(とばり)」がロケ地を包み込む。外の喧騒は一瞬で消え、そこは「演技」だけが支配する聖域へと変わった。
今日の撮影は、主演の虎杖悠仁と、ゲスト出演の伝説的俳優・両面宿儺の対峙シーンだ。
「小僧、その程度の『顔』で俺の前に立つのか?」
宿儺が、台本にないセリフを吐き捨てた。彼が放つ圧倒的な威圧感。それはもはや演技を超えた暴力だった。スタッフの中には、その気圧に耐えきれずカメラを落としそうになる者までいる。
モニターを見つめる五条講師は、飴を口に放り込みながら不敵に笑った。
「いいね、宿儺。最高に性格が悪い。さあ、悠仁はどう受ける?」
虎杖は震えていた。だがそれは恐怖ではない。
格上の役者と対峙した時だけに出る、武者震いだ。
「……アンタの『役』に、俺の居場所なんてねーんだよ!」
虎杖が叫ぶ。その瞬間、彼の発声は空気を震わせ、現場に「黒閃(こくせん)」——完璧なタイミングの神演技が炸裂した。
「カット!……OK、最高だ!」
監督の声が響き、帳が上がる。
先ほどまで化け物のような顔をしていた宿儺役の俳優は、ふっと憑き物が落ちたような顔になり、虎杖の肩を叩いた。
「今の間、悪くない。……だが、次は俺が食い潰すぞ、主演」
虎杖は額の汗を拭い、隣にいた伏黒恵を見た。伏黒は練習を中断し、少しだけ口角を上げていた。
「今のシーン、SNSでバズるな。……お疲れ、虎杖」
寮に帰れば、喉を休めるために「おかか」としか喋らない狗巻先輩がのど飴をくれるだろう。
ここは呪術高専。才能という呪いを抱えた若者たちが、トップスターという頂点を目指して、今日も「自分以外の誰か」を演じ続ける場所だ。
業界語図鑑
「黒閃(こくせん)」:瞬きもできないほど、完璧なタイミングで決まった「神セリフ」。決まると現場に火花が散るような高揚感が生まれる。
「縛り(しばり)」:「今回のシーンはノーメイクで出る」など、自分に制約を課して演技力を底上げする手法。