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はみ出し
駄作すぎる
2026/03/01 はみ出し
「マナカです。ヨロシクおねがいします。」
前の席の子がそれだけ言って頭を下げ、席についた。一拍おくれてまばらな拍手が起こった。下の名前は? あたしは少し視線を揺らしたあと、立ち上がった。用意していた自己紹介を、明るい声で口にする。「宮中あおばです! 趣味は、アニメをみることです。よろしくお願いしますっ。」パチパチパチ。さっきよりは大きい拍手に安心しながら座り直した。
*
「ミヤナカさんって、好きな色なに。」
休み時間に、前の子に聞かれた。体を捻ってあたしを真っ直ぐに見つめる、マナカ…なんとかさん。リュックに大量にキーホルダーをつけている、ボーイッシュな子だ。あたしは質問の意図が汲めないまま、きゅっと口角を上げて答えた。「お、オレンジ! です。」
マナカさんは目を細めた。感情の読めない表情に居心地の悪さをいだく。数秒の沈黙が流れる。彼女は言う。
「青じゃ、ないのね。」
名前はあおばなのに、好きな色は青じゃないんだね、そういう意味なんだろうと理解するのに、少し時間がかかった。「…あ、う、うん。言われてみれば、そうかもー。」曖昧に首を傾げ愛想笑いを浮かべると、マナカさんは体を前に戻した。…一体なんの会話だったんだろう。引きつった笑みだけがあたしの顔に残った。
*
中学に入学して2週間が経った。クラスでは、いわゆるグループみたいなものが形成されつつあった。けれどあたしは、ぼっちだ。なるたけ好印象になるよう頑張った自己紹介のおかげか、最初の数日は話しかけてきてくれる子もいたが、会話が続かなかったせいか離れていった。
あたしは少々焦っていた。中学生活をぼっちで過ごすのは嫌だった。ペア授業で余るのは気まずいし、友達と一緒に青春したいし、学校を休んだ時などノートを見せてもらいたいし、親に余計な心配をかけたくない。
誰か、まだどこのグループにも入っていない子がいないだろうか。騒がしい休み時間。そう思いながら、あたしは本から顔をあげた。
すぐに見つけた。まだ、どのグループにも入っていない子を。
「ね、ねえ! マナカさん。」
あたしは勢いよく席を立ち上がり、目の前の背中に声をかけた。マナカさんがこちらを振り返る、たった数秒のあいだ。心臓がうるさい。
*
「マナカって、漢字で書いたら真中でしょ。真ん中って意味の。でも実際は全然はみ出てるよね。集団から。」
通学リュックにつけている大量のキーホルダーが、私が歩くたびにじゃらじゃらと揺れる。
学校からの帰り道、私はそう言ってきた友人に笑いを返した。あんただって名前はあおばなのに好きな色はオレンジでしょ。たいした反撃でもないけれどそう口にすると、友人は肩をすくめた。
「テッパンネタ?それ。中1の時も言ってたよね。いま、中3なのに!」
傾き始めた夕日が、私たちの影を長く伸ばす。呆れたように笑っている友人に、「あのアニメ、今日からなんじゃないの。」と訊ねると、友人は知ってるよと声を弾ませた。
私はグループの真ん中にはいないし、友人も青い色を選ばないけど、それで特に困ることはなく、もうすぐ高校受験。
駄作すぎる