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とおりゃんせ 前編
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
ちっととおしてくだしゃんせ ご用のあるものとおしゃせぬ
この子の七つの祝いに お札をおさめにまいります
行きは良いよい 帰りは恐い 恐いながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
改めて思うと、この歌は摩訶不思議なものだと思う。天神さまって誰?って感じだし、どことなくイヤな感じがする。
それでも、あたし___真子は、通りゃんせが好きだ。2人が手を繋いで、その下を大勢が渡っていく。歌が終わった時、下にいた子は、手を繋ぐ番になる。
いままで、通りゃんせを何回もしてきた。だけど、急にできなくなったのだ。
転校することになったからだ。
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「|近藤真子《こんどうまこ》です、通りゃんせを遊ぶのが好きです。よろしくお願いします」
慣れない土地。自然の空気は感じるが、別物な感じがする。
通りゃんせ、やりたいな。そう思って、地味っぽい女子4人グループを誘ってみた。
「ね、通りゃんせやらない」
「通りゃんせ…。ああ、あれね」
知っているような口ぶり。期待できそうだ。
「知ってるよ。だいいち、わたしたち、いっぱいやってるもの。4人だと面白くないから、嬉しいな」
「本当?ありがとう」
「この学校は、放課後、校庭が開いてるんだ。だから、やらない?」
「うん!」
まさか、ここで通りゃんせができるなんて。嬉しいな。
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通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ___
「通りゃんせ…」
「あら?」
校庭にさっそく行くと、誰かがいた。8人…いや、とっても多い。遠目だと、数えられない。
40mぐらい離れて、ちょっと「通りゃんせだ」とつぶやく。それでも、女の子はあたしの声に反応する。正直、びっくり。
「あれっ…」
さっきまで、けっこういたはずだ。なのに、いまは1人になってる。
「通りゃんせ、好きなの?」
「うん」
「ふふ、そうなのね。良かったら、一緒にやらない?萌音と、紀子と、ジュリと、カンナと、凛奈、それからユウコでやってたところなの」
「いいけど…あたし、4人とやる約束してるの」
「そうなのね。じゃあ、入れてもらっていいかしら」
「うん、多分」
全然知らないあたしでも、いいよと気さくに言ってくれるのだ。きっと、いいだろう。
「真子ちゃーんっ」
校庭で走る音が、だんだん近づいてきた。