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私のことを救ったあの人を⑫
星
【1】「本当にかっこよかったよ、桜」「もう、先輩、褒めすぎです!」キーホルダーを見つけてあげた女の子を見送ったあと、二人は笑顔で路地裏を歩いていた。だけど、その笑顔は一瞬で凍りつくことになる。路地裏のさらに奥、古びた倉庫の陰から、黒いスーツを着た大柄な男たちが三人、突然姿を現したのだ。男たちの目は血走り、何かにひどく怯え、修羅場をくぐってきたような冷たい怒りを孕んでいた。「おい……ガキども。さっき、ここで何か拾わなかったか?」低くて、ドスのきいた声が薄暗い路地に響く。「え……? いえ、何も……」朝日先輩が本能的に察知し、桜を自分の背中に隠した。「嘘つくんじゃねえ!!」男の一人が壁を思いきり殴りつけた。「この近くに、組織の【機密データが入ったUSB】を落としたはずなんだよ! それをさっきのガキが持っていったのか、それともお前らが隠したのか、どっちだ!?」【2】桜の並外れた「耳」が、男たちの懐(ふところ)から聞こえる不気味な音を捉えていた。カチャ、カチャ……。それは、硬い金属が噛み合う音。テレビの刑事ドラマでしか聞いたことがない、けれど絶対に間違えようのない【本物の拳銃】の音だった。(嘘……。あの人たち、本物の銃を持ってる……!)恐怖で桜の歯の根がガタガタと震え出す。学校のいじめっ子たちのバットやカッターナイフとは、格が違いすぎる。目の前にいるのは、本物の犯罪者、本物の悪党だ。「おい、トランクを開けろ。このガキども、まとめて拉致(らち)して吐かせるぞ」リーダー格の男が冷酷につぶやき、路地の入り口に黒い高級車がバックで入ってきた。完全に逃げ道を塞がれる。「桜、走れっ!!」朝日先輩が叫び、桜の手を引いて反対側の狭い隙間へ逃げようとした。だけど、一ヶ月の疲労が残る朝日先輩の足が、ここで激しくもつれてしまう。「くそっ……!」鈍い音を立てて、朝日先輩が派手に地面に倒れ込んだ。【3】「先輩――!?」助けようと振り返った桜の髪を、男の手が容赦なくひっつかんだ。「痛っ……!」「ちょこまかと動くんじゃねえよ!」地面に倒れて身動きが取れない朝日先輩の頭に、男がゆっくりと冷たい拳銃の銃口を突きつける。「動くな。動いたら、まずこの男の頭をぶち抜く」「やめて……! 止めてください!!」桜は必死に叫んだ。けれど、男たちの力は中学生の桜では爪の一振りすら動かせないほど強かった。朝日先輩は頭を地面に押し付けられ、悔しさに顔を歪めながら、苦しそうに息を吐いている。男は冷笑しながら、拳銃の撃鉄(ハンマー)をカチリと起こした。「データの場所を言うか、ここで二人揃って消えるか、三秒で選べ」「三……」「二……」【4】(もう無理……。どうすればいいの……!?)桜の頭の中は真っ白になった。自慢の耳を使おうとしても、聞こえてくるのは男の冷酷なカウントダウンと、朝日先輩の苦しそうな呼吸の音だけ。どんなに推理しても、この圧倒的な暴力と本物の銃の前では、何のトリックも通用しない。助けてくれる大人もいない。警察を呼ぶ時間もない。大好きな朝日先輩の命が、あと一秒で消されてしまう。二人の「人助け名探偵」としての歩みは、始まったばかりの路地裏で、完全に終わりを告げようとしていた。