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鬼灯町の百物語 第一話:赤い下駄の音
昭和11年、雨のしとしと降る夜。鬼灯町の「灯籠会館」に、数人の住人が集まっていた。百夜怪談の初日——町に古くから伝わる風習であり、一夜に一話ずつ怪談を語ることで、悪霊を鎮め、平穏を願う。
語り部の一人、古道具屋の店主・佐野弥一が語り出す。
「昔な、夜の路地に赤い下駄の音が聞こえたら、ついて行っちゃならんて言われとったんじゃ…」
昭和初期、町の外れにあった遊郭の話。そこで働いていた娘・お梅は、ある客に恋をしたが、その男は他所に家庭を持っていた。報われぬ恋が心を壊し、ある嵐の夜、お梅は赤い下駄を履いたまま井戸に身を投げたという。
それからというもの、雨の夜に限って「カラ…コロ…」と赤い下駄の音が路地に響くようになった。誰かが音の方へ歩いて行くと、翌朝には姿を消している…。
佐野の話が終わると、部屋に沈黙が流れる。外ではまだ雨の音が続いていた。
その夜の深夜、町の若い郵便配達員・大澤が行方不明となった。彼は雨の中、配達の帰り道、灯籠会館近くの路地を通ったはずだった。
机に置かれた赤い下駄の片方だけが、翌朝発見される。
新しいシリーズを始めました
10話の予定ですので読んでくださると嬉しいです