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床ドン⇨壁ドンからの…
放課後の図書室。一番奥にある、高い書棚に囲まれた死角。
はじめは、九郎に頼まれた「お絵描きの参考資料」を求めて、脚立に登って古い画集に手を伸ばしていた。
「あった……! ……わわっ!?」
指先が本に触れた瞬間、脚立がガタッと揺れる。バランスを崩したはじめの体が、宙に浮いた。
「はじめっ!」
下で本を探していた九郎が、咄嗟にはじめを受け止めようと飛び込んでくる。
ドサッ、という鈍い音。
気づいた時には、はじめは図書室の冷たい床の上で、九郎に押し倒される形になっていた。
「……いたたた……。あ、九郎くん、ごめん! 大丈夫!?」
慌てて起き上がろうとしたはじめだったけど、両手首を床にガシッと押さえつけられて、動きが止まる。
「……九郎、くん……?」
見上げると、九郎の髪が乱れ、瞳がいつもよりずっと暗く沈んでいた。
彼ははじめを床に縫い付けるようにして、覆いかぶさっている。
これが巷で言う「床ドン」だと気づくのに、はじめは数秒かかった。
「……お前、本当に危なっかしいんだよ」
九郎の声が、地を這うように低い。図書室の静寂が、その声をより一層、熱っぽく響かせる。
「ごめんなさい……。でも、もう離してくれないと……ここ、図書室だし……っ」
はじめが顔を赤くして身をよじると、九郎はさらに力を込めて、はじめの耳元に顔を寄せた。
「……嫌だね。お前が勝手に落ちてきたんだ。捕まえた俺に、所有権があるんだろ?」
「え……?」
「今、ここには俺とお前しかいない。お前がどんなに赤くなって、どんなに可愛い声を出しても、誰にも邪魔されないってこと」
九郎の指先が、はじめの手首を弄るようにゆっくりとなぞる。
はじめの心臓は、床を突き抜けるんじゃないかってくらい激しく波打っていた。
「……はじめ。俺、今すげー機嫌悪いんだけど。……お仕置き、してほしい?」
九郎の唇が、はじめの首筋に触れるか触れないかの距離で止まる。
いつもは「好き」って笑ってくれるはじめも、今の九郎の「捕食者」みたいな雰囲気に
ただただ翻弄されて吐息を漏らすことしかできなかった。
「……だめ、九郎くん……そんな顔、しないで……っ」
「……だめって言われると、もっとしたくなる。……お前が俺を、そうさせたんだからな」
九郎はそう言って、はじめを閉じ込める腕に、さらに独占欲を込めて力を込めた。
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「おーい、誰か残ってるかー?」
遠くの方で、図書室の重い扉が開く音と、体育教師の野太い声が響いた。
床ドン状態のまま固まっていた二人の間に、一気に緊張が走る。
「ひゃ、ひゃわわ……! 先生! 九郎くん、先生が来ちゃう……っ!」
はじめが顔を真っ赤にしてパニックになりかけると、九郎は
「チッ……」
と短く舌打ちをして、素早くはじめを抱き起こした。
「……こっちだ。来い」
九郎ははじめの手を強く引くと、一番奥にある、古びた百科事典が並ぶ巨大な書棚の裏側、
わずかな隙間に滑り込んだ。
そこは大人一人がやっと入れるくらいの狭いスペース。そこに二人で無理やり入り込んだから、
体温が直接伝わるくらい密着することになる。
「っ……九郎くん、近い、よ……」
「……黙れ。見つかりたいのか?」
九郎がはじめの口を自分の手で塞ぐ。はじめの背中は壁に、前面は九郎の胸板に挟まれて、逃げ場はどこにもない。
コツ、コツ、と先生の足音が近づいてくる。
暗がりの中、九郎の瞳だけがすぐ至近距離で光っていた。はじめは心臓の音が外まで漏れてるんじゃないかと思って、必死に九郎のシャツを握りしめる。
「おかしいな、確かに人の声がしたんだが……」
先生がすぐ隣の棚までやってきた。棚の隙間から、先生の影がチラチラと見える。
恐怖と緊張で震えるはじめの肩を、九郎が片腕でぐいっと引き寄せ、自分の胸の中に閉じ込めた。
(九郎くんの心臓も、すごく速い……!)
いつも余裕な九郎だけど、実は彼もドキドキしてるんだ……そう気づいた瞬間、はじめの緊張が少しだけ溶けて、代わりに甘い痺れが全身に走る。
九郎ははじめの耳元に顔を寄せると、先生に聞こえないくらいの極限の小声で、意地悪く囁いた
「……お前、こんな時にまで顔赤くして。……誘ってんの?」
「んんっ……!」
口を塞がれているから声は出せないけど、はじめは猛烈に首を横に振る。
でも、九郎の腕の力は緩まない。むしろ、見つかるかもしれないスリルを楽しんでいるかのように、空いた方の指先ではじめの腰を、服の上からゆっくりとなぞった。
「……見つかったら、お前のせいだからな」
九郎は囁いた。
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先生の足音が完全に消えて、図書室がまた元の静寂に包まれる。
でも、本棚の裏の狭い隙間だけは、二人の熱い体温で空気が甘く停滞したまま。
「……行ったみたいだね、九郎くん」
はじめがホッとして九郎の胸元から顔を上げようとしたけど、九郎の腕はまだ解かれない。
それどころか、口を塞いでいた手がゆっくりとスライドして、はじめの顎をクグイッと上に向かせた。
「……九郎、くん……?」
「……お前、さっきから心臓うるさすぎ。俺のシャツ、そんなにぎゅっと握りしめてさ……」
九郎の声は、先生がいた時よりもさらに低くて、どこか余裕がない。
狭い隙間で逃げられないのをいいことに、九郎は自分の膝ではじめの動きを封じ、
ぐいぐいと距離を詰めていく。
「だって、怖かったんだもん! 見つかったら怒られちゃうし……っ」
「……怖かったのは『先生』だけか? 俺にこうされてる今は、怖くないのかよ」
九郎の視線がはじめの唇に落ちる。
さっき床ドンされた時の比じゃないくらい、九郎の「ドS」なスイッチが入っているのが分かって、
はじめの背中にゾクゾクとした震えが走る。
「……あ、あの、九郎くん。もう先生いないし、出よ? ね?」
「嫌だね。……お前、さっき俺の指が腰に触れた時、変な声漏れそうになってただろ」
「っ……! それは、九郎くんがいじわるするから……!」
「……自覚あんじゃん。……お前がそんな顔するから、余計に弄めたくなるんだよ」
九郎はそう言うと、はじめの耳たぶを甘噛みするように唇を寄せた。はじめが
「ひゃんっ」
と小さな声を上げると、九郎は満足そうに喉の奥で低く笑う。
「……はじめ。ここなら誰にも見られない。……さっきの続き、もっと深いところまで教えてやるよ」
九郎の手がはじめの腰をぐっと引き寄せ、二人の体はさっきよりも密着する。
本棚の裏という「秘密の檻」の中で、はじめは九郎の独占欲に飲み込まれていくしかなかった。
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本棚の裏の狭い隙間、埃の匂いと古書の香りに混じって、二人の熱い体温が|充満る《みちる》
九郎の腕の中、はじめはもう心臓が破裂しそうだった。
「……九郎くん、もう、顔が近すぎて……っ」
「……近いのが嫌なら、目、閉じろよ。……お前、俺のこと見てるときの顔、めちゃくちゃ無防備だって自覚あんの?」
九郎の低い声が鼓膜を震わせる。
彼ははじめの両手首を頭上の壁に押しつけるようにして固定した。
これがいわゆる「壁ドン」の進化系だと気づく暇もなく、九郎の唇がはじめの鎖骨のあたりに、熱を落とした。
「ひゃっ……! く、九郎くん……!?」
「……動くな。お仕置き中だろ」
九郎ははじめの首筋に鼻先を寄せ、深く息を吸い込む。
いつもはクールな彼が、今は余裕を失った獣みたいな目で、はじめを独占しようとしている。
「……お前、さっき先生が来たとき、俺の胸に顔埋めて『助けて』って顔してたよな。……あれ、めちゃくちゃそそられた」
九郎の指先が、はじめの制服のリボンをゆっくりと解いていく。
はじめは真っ赤になって、
「だめ、そんな……」
と弱々しく抵抗するけど、九郎の力には抗えない。
「……だめじゃない。俺のだろ、全部」
九郎はそう言うと、はじめの唇を塞いだ。
さっきの「はじめてのキス」とは全然違う。深く、執拗で、はじめの呼吸をすべて奪い去るような、熱い熱い口づけ。
「……ん、ぅ……っ」
はじめが息苦しそうに吐息を漏らすと、九郎は一度唇を離し、潤んだはじめの瞳を至近距離で覗き込んだ。
「……はじめ。……もっと俺の名前呼べよ。……俺しか見えないくらい、ぐちゃぐちゃにしてやるから」
九郎の独占欲がついに限界を突破して、はじめを飲み込んでいく。
本棚の裏、誰にも見られない秘密の檻の中で、二人の甘い喘ぎ声だけが、図書室の静寂に溶けていった。
制作時間:30分
チャッピーによる加筆・修正あり。