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#6
「ねえねえ、九郎くん! ずっと考えてたんだけどさ!」
いつものように放課後の教室で、はじめが九郎の机に身を乗り出した。
今日の彼女は、なんだか朝からそわそわして落ち着きがない。
「……何。またろくでもないことだろ」
「ひどい! ろくでもなくないよ! あのね……私、九郎くんのこと、呼び捨てで呼びたい!」
九郎がめくっていた本のページが、ピタッと止まった。
「……は? 急に何言ってんだ」
「だって! 周りのカップルとか、呼び捨てで呼び合ってるし! 私たちももっと、こう……心の距離をゼロにしたいっていうか!」
「……今のままでも十分近いだろ。お前、さっきから物理的にも近いし」
九郎は冷静を装って、はじめの額を指一本で押し返した。でも、実は心臓が少しだけ早鐘を打っている。
「お願い! 一回だけ! 練習させて!」
「……勝手にしろ。どうせお前には無理だろ」
九郎はわざと突き放すように言って、また本に視線を落とした。
「隠れドS」な彼は、はじめがもじもじして赤くなっているのを見るのが、実はたまらなく好きだった。
「……う、うん。いくよ? せーの……」
はじめは深呼吸をして、ぎゅっと目をつぶった。
「…………九郎っ!」
「…………」
静まり返る教室。
九郎は無言のまま。でも、手に持っていた本が指先から滑り落ちて、机に大きな音を立てた。
「……あ、あの、九郎くん? 怒った……?」
はじめが恐る恐る目を開けると、そこには、顔を真っ赤にして口元を片手で覆った九郎がいた。
「……九郎くん?」
「…………っ、うるさい」
九郎の声が、少しだけ裏返っている。
「……お前、……破壊力考えろよ。バカ」
「えっ、破壊力!? ってことは、良かったってこと!? 九郎! 九郎ー!」
調子に乗ったはじめが、九郎の腕に抱きついて何度も名前を連呼する。
「……あー、もう、わかったから! 一回だけって言っただろ!」
「えー、いいじゃん! 九郎、大好き! 九郎、愛してる!」
「……っ、…………俺も」
「えっ、何!? 今なんて言ったの!?」
「……言ってねーよ! ほら、帰るぞ、……はじめ」
不意に九郎から名前を呼ばれ、今度ははじめが真っ赤になって固まる番だった。