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第6話:確信犯と、甘い毒の副作用
アドラ寮の朝。
かつてのような「攻撃的な腹痛」ではなく、最近のアネモネがドットを起こす方法は、少しだけ変化していた。
「……起きなさいよ。……別に、ずっと寝顔を見ていたいわけじゃないけれど」
アネモネはドットの頬を、片手でぺちぺちと叩く。
かつての底上げ靴を履かなくなった彼女の視界は、ドットを見上げる位置にある。その事実が、今の彼女には酷く心地よかった。
「んぅ……お、アネモネ……。おはよ……今日も159センチ、最高に可愛いわな……」
「……万死に値するわよ(赤面)」
そんな二人の「甘い毒」が充満した部屋に、無遠慮な足音が近づいてくる。
「あ、おはよう。今日も朝からイチャイチャしてるね。シュークリーム食べる?」
壁……ではなく、ドアから普通に入ってきたマッシュが、平然と言い放つ。
その後ろでは、フィンが顔を真っ青にしながらツッコミを待機させていた。
「マッシュくん! 『イチャイチャ』とか直球で言っちゃダメだよ! アネモネさんの顔が毒の色みたいに真っ赤だよ!」
「……っ! 別に、そんなんじゃないわよ! こいつが、脳内ガキのくせに、変な寝言を言うから……!」
アネモネは慌てて距離を取るが、寝ぼけたドットが彼女の手首を掴んで引き寄せる。
「いいじゃねえかフィン! 俺とアネモネは、運命のルームメイトなんだわな! なあ、アネモネ!」
「……死ね。今すぐ死んで」
言葉とは裏腹に、アネモネの指先から出たのは、微かにイチゴの香りがする「精神安定の胞子」だった。殺意ゼロ、むしろ愛情100%の副作用。
「これ……もう付き合ってるよね? 告白とかいう段階、飛ばしてるよね?」
フィンの魂の叫びが空虚に響く。
しかし、そんな平和な光景をぶち壊すように、廊下に冷徹な空気が流れた。
「アドラ寮の1年生か。騒がしいな」
現れたのは、3本線のアザを持つ神覚者、レイン・エイムズだった。
彼の鋭い視線が、アネモネに向けられる。
「アネモネ・ロスト。お前の『毒』、先日の演習で見せてもらった。……『悪意にのみ反応する魔法』、それは極めて稀有な資質だ」
「……レイン、先輩……」
アネモネの体が強張る。エリート中のエリートである神覚者が、自分のような「不吉な毒」に何の用があるのか。
すかさず、ドットがアネモネを背中に隠し、レインを睨みつけた。
「おい、神覚者サマがアネモネに何の用だ? こいつを魔法局の道具にしようってんなら、俺様が黙ってねえぞ!」
「……黙れ、赤髪。俺は、彼女の『意志』を聞きに来ただけだ」
レインは一羽のウサギを撫でながら、アネモネを真っ直ぐに見つめた。
「お前の毒は、使い方次第で多くの命を救う。……だが、それには強力な『盾』が必要だ。この騒がしい男が、その盾になれるかどうか……試させてもらうぞ」
神覚者からの事実上の挑戦状。
アネモネはドットの制服の裾をぎゅっと握る。