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お泊まり林間学校 - ミチの事故の事1 -(3話)
歓迎会 - ロプタン分校の子供達 -(2話)の続きです。
夜が突然朝になったり
根っこらぼ 装着中に寝てしまったりで
時間感覚が混乱していたが
歓迎会の食事が終わるころには
外は暗くなってきていた
サギブ先生の話では
子供達はここで一泊して
明日自分達の時代に戻るとのこと
僕だけは未来に居残りで
根っこらぼ のオプション探し
|「《sc》さぁ
寝る前に温泉や
温泉
トデボ
一緒に行こ
混浴やで」
|「《tD》え
あ
さ… 」
|「《sc》なにあわてとんや
入浴中は 根っこらぼ は着たままや
うちは カワウソ君スタイルにするかな
泳いでもええ
ええ所があるんや
行こ行こ」
|「《tD》ちょっとその前に
お手洗い」
|「《mZ》それでは僕が
根っこらぼ を使ってのお手洗いの方法
説明します
根っこらぼ のこの機能は
皆だいたい共通だと思うので
でも
ここではなんなので
あちらへ行きましょう」
僕はミズナとふたりで
食べ物を渡してくれる
ブースとブースの間の
通路へ向かう
|「《mZ》お手洗いに行きたい思ったら
なんとなく
今向かっている方向へ
行きたいなりませんか」
|「《tD》言われてみたら
そうかも」
|「《mZ》それも 根っこらぼ と
根っとわーく の作用のようです」
近づくと自然に発光する
アイボリーの壁に囲まれた
通路を少し歩き
分岐を曲がると袋小路
|「《mZ》ここでよいでしょう
それでは
まず僕がおしっこしてみます」
と
ミズナはしばらく
背筋を伸ばして
立ったまま
便器もなにもないところで
ちょっと不自然
服もそのまま
というか
ミズナの服も
根っこらぼ のようだ
ミズナの表情が
スッキリしてくるのに
連動するように
ミズナの股間が膨れてくる
ミズナがそこを手で握ると
簡単に根っこらぼ の一部が
球状に分離する
|「《mZ》これ
ガベッジポーチ
といいます
ここに回収場所があるので
置いておきます」
ミズナがガベッジポーチを
一見なにもない壁に押し付けると
ガベッジポーチは
壁に吸い込まれるように
消えて行った
|「《mZ》人間の排泄物も
森のため
根っとわーく のため
利用しているようです
すぐに回収場所がないときには
ガベッジポーチは大腿の外側に
移動して
持ち歩くこともできます
匂い漏れなどないので
安心です
根っこらぼ のオプションによっては
根っこらぼ の中だけで
人間の排泄物を
水と二酸化炭素と窒素などの肥料に
変換してしまうものもあるようです」
|「《tD》あのぉ~
大
の時は
どうしたら?」
|「《mZ》それも
好きな恰好で
そのまま出してもらえれば
大丈夫です
匂いも音も漏れません」
|「《tD》では
ちょっと失礼して」
服の中に出すようで
不快な感触にならないか
不安もあったが
そんな心配はいらなかった
体外に出されたものは
皮膚に接触する感覚もなく
根っこらぼ に吸い込まれるような感じ
横に移動するように軽く念じてみると
大腿の外側にガベッジポーチが
形成されていった
|「《tD》おお
これは快適かも」
|「《mZ》善玉菌たちが
お尻の清潔と環境を整えてくれるので
拭いたり洗ったりする
必要もないそうです」
|「《tD》ふむふむ」
カタリも言っていた通りだ
大腿の外側のガベッジポーチを
取り外そうと思いながら握ると
簡単に球状に分離する
|「《tD》よしよし」
先ほどまで普通の壁に見えて所も
今は半透明でガベッジポーチの
回収口になっているのがわかる
|「《tD》ここに入れたら
いいんだよね」
|「《mZ》そうです
根っこらぼ と 根っとわーく
だいぶ使えるようになってきましたね」
|「《tD》根っとわーく といえば
なんかサチちゃんが
あちらから
早く来いと呼んでいるような
気もするのだけど」
|「《mZ》その通りです
ではでは
温泉に行きましょうか」
根っとわーく に導かれ
到着したのは
温泉
というより
地下空間の大きな池
でも湯気も出ている
湯の中や岸では
分校の子供達や未来人達が
思い思いにくつろいでいる
|「《sc》おぉ
やっと来たんか
遅かったやないか
まあ
大
だったら仕方ないか
早よ入り
根っこらぼ はそのままでええけん」
とカワウソ姿のサチが
池の中の小島で呼んでいる
着衣のまま入浴というのも
ちょっと抵抗があるが
おそるおそる湯に入ってみる
岸から湯の中へは
ゆるやかな傾斜になっていて
歩くにしたがって
足から膝
大腿
腰
と湯につかっていく
…
湯につかった部分から
根っこらぼ を着ている感覚が消えていく
なんか裸になってしまったようで
不安になり
下半身を確認するが
いままで通りの木のフォルム
|「《mZ》どうです
いい感じでしょ
根っこらぼ の
骨格となる分子の構造や
その骨格に住んでいる
微生物達の配列が変化して
まるで裸で入浴しているような
感覚になるのだそうです」
|「《tD》いや凄い
これはすごい技術だ」
それからしばし
サチ達と
お湯遊び
湯から上がった時も
着衣が濡れているような不快感はなく
すっと肌の表面が
適切な湿度と温度に調整されていく
そして男女別れた
大部屋で就寝時間
アイボリーの壁に床
部屋の一面には窓が並び
外は夜の森
布団もなにもないが
寝っ転がると
根っこらぼ と床が癒合し
身体の下は適度の弾力と
寝がえりにも追従する
凹凸ができる
まるで無重力空間
とても心地が良い
こんな風に
ミチと
ずっと抱き合えたらいいのに
…
ミチとなら
ふたりの 根っこらぼ は
ふたりを包むように融合するかも
そして素肌で触れ合う
ミチ
ミチ
会いたいな
…
ミチ
あれ
そこにいるの?
そこはヒトダラトの都市の一角
あまり広くはないが
原生林の保存された緑地
小学6年の夏
わざとミチの家の近くを散歩していたとき
偶然ミチと出会い
一緒に行った
僕とミチは大きな樹の幹に
両手をあてている
ふたりの小指はそっと重なっている
|「《Mc》私
もうすぐ酷い目に合うのかな
でも
もし
私のことを大切に思う人がいてくれるなら
その人にはそのことで
だれも恨んで欲しくはないな
恨みはなにも生まない
なによりもそんな心を持つだけで
その人が一生で感じられるはずの幸せの
多くを奪ってしまうことになるから」
ミチの言葉は
僕に話しかけるようではなく
独り言のようだった
どう反応してよいか
困った表情をしている僕に
ミチはそっと
口に人差し指をあて
しゃべらないでいいよと
ゼスチャーで教えてくれた
ミチは最近
独り言のようにしか
しゃべられなくなった
そして
僕にはしゃべらせてくれない
ミチが変わったのは
あの手書きのメモをくれた日からだ
そのメモは
残念ながらラブレターではないが
今も大事にしている
|「《Mc》そろそろ
行こっかな」
ふたりで
大きな通りの広い歩道を歩く
ミチの最近の変化は
気にはなるが
とにかく一緒に歩いているだけで
幸せだ
|「《rA》!!ミチ!!
すぐにスマホを捨てるんだ!」
突然後ろから叫ぶ男性の声
|「《Mc》お父さん
危ない!!」
男性の後ろには
車道を外れ
歩道を突進してくる
一台の車
車はその男性を跳ね飛ばし
こちらに向かってくる
猛スピードで突っ込んでくるようにも
止まっているようにも感じる
そしてミチもぼ
僕はロプタン分校の男子諸君が
寝静まる部屋で
独り座って喘いでいた
鼓動は強く早く
心臓が壊れてしまうのではないかと
心配にもなる
昨晩は疲れていたので
時間も気にせずに寝てしまった
今何時だろう
外はまだ暗い
時間を気にした瞬間
頭の中に
午前1時との感覚が湧きあがった
これも 根っこらぼ の作用なのか
いつもの時間だ
毎晩
繰り返し繰り返し
夢の中でも
フラッシュバックしてくる
あの事故のこと
ただ
いつもは事故の瞬間だけが
繰り返されていたが
今日はその前のミチとの
幸せな時間も夢に出てきた
それだけはありがたい
でも
こうなったら
もう寝付くことはできない
朝まではまだ長い
恐怖とでも表現したらよいのだろうか
なんともいえない不快が
心に渦巻く
と
急に不快の一部が
背中から吸い取られるように
少しだけ軽くなる
|「《sN》とても辛い
経験をしたようですね」
背中に手を当てていたのは
シンラツ
シンラツは小声で続ける
|「《sN》ここでは
みんなを起こしてしまうかもしれないので
他に行きましょう」
シンラツの後について
地下の通路から
地下を走る小型のモノレールに乗る
しばらく無言の時間が続いたが
不思議と嫌な感じはしなかった
モノレールを降り
半透明の壁をすり抜け
地上に出たところは
夜の草原
零れるような満天の星空
月は出ていないが
星だけでこんなに明るいのだと
ちょっと驚いた
目がなれてくると
草原の所々には岩もあって
自然の大庭園
いつかこんな所で
こんな星空を見ようね
ミチとそんな話をしたことのある
そんな場所
シンラツがベンチに腰掛けたので
僕はその隣に座る
不思議で
どこか心地よい
無言の時間が過ぎた
|「《sN》少しは落ち着きましたか」
|「《tD》はい
だいぶ」
いつのまにか
僕の鼓動は
普段の強さと速さに
戻っていた
|「《sN》しかし事故による身体の傷は治っても
心のトラウマを治すのは難しいですね
車
今でも怖いでしょ」
|「《tD》はい
そうですね」
|「《sN》実は私も
自動車事故で
弟をなくしました
自動車によるダメダメな害は
計り知れません
でも
マスコミも
作家も
自動車会社からスポンサーになってもらうため
車による害を表ざたにすることはありません
スポンサーと無縁な公共放送も
自動車産業にかかわる人々の
生活を気にして
自動車の害を公然と報道することはありません
自動車事故の加害者を
問題視することはあっても
車社会自体を問題視することはありません
学者や研究者も
自動車による様々な害を
積極的に取り上げることはしません
自動車産業が衰退すると
それに関わる多くの労働者が困るので
自動車産業を大事にしなければならないとの
風潮がありますが
それは
自動車産業に関わる人々の
生活を人質にとることで
さらに自分達の都合の良い社会を作るために
実業家と政治家が結託した結果で
すでに民主主義なんて形骸化しているのです
こんなことを続けているので
改めなけれないけない所も
改めることなんてできません
自動車業界と政府とマスコミが
ダメダメな結びつきを形成して
何十年もの間
自動車優先の政策を続け
時代の変化についていけず
すっかり衰退してしまった
国もあります
世界では年間100万人以上が
自動車事故で亡くなっているようです
殺傷能力のある道具が
ここまで自由に使用されているのは
不思議でなりません
免許制度があるとはいえ
多くの人が亡くなっているのは
事実です
排気ガスや
自動車を製造するために必要な
膨大なエネルギーがもたらす
温暖化も含めた環境破壊も
本当は待ったなしの状態です
これらのことだけでも
緊急に自動車の製造と使用を制限してよい
事実だと思うのですが
自動車によるダメダメな害は
これだけではありません
道路や駐車場を作るために
使われた土地面積が
緑地や農地だったら
地球はもっと住みやすい星でしょう
車の騒音や振動
高速の物体が近くを走行することによる
ストレスにより
蓄積された精神的・身体的悪影響は
実は計り知れないほどあります
運転する側だって
知らず知らずのうちに
多大な身体的・精神的な
悪影響を受けているのです
例によって
学者・研究者も
口をつぐんでいますが
こんなダメダメな車社会を
ここまで無制限に広げたのは
自動車業界がもうけるため
そしてその利益に
一部の人々があやかるためです
便利になったという人もありますが
車が増えると
公共交通機関は衰退し
車を運転しない人は
どんどん不便になっていく
人類が自動車と
自動車による害の対策に費やした
膨大な頭脳や労働力や金銭を
理想的な公共交通機関や
救急医療の構築に
振り向けていたなら
もっとよい社会になっていたはずです
エコな自動車と宣伝しているものありますが
それを作るだけで
多くの資源やエネルギーを必要としています
自動車を作る台数を
1台でも減らすのがエコです
…
でも
トデボ君の心の不安は
自動車に対する恐怖だけではないですね
なにか
スターオーアイ
が関係してますね」
いままで誰にも言わなかったことだが
ここで話さないのは不自然だし
なによりもシンラツは
このことに関しても
力になってくれそうな気がする
|「《tD》ミチと僕が事故にあった時
僕の鞄の中身は道に散乱していたそうです
僕の意識が回復し退院する時に
その荷物をまとめて渡してもらったのですが
その中に
ミチの父親が事故の時
確か片手で持っていたファイルが
紛れ込んでいたのです
ミチも父親もあの事故で亡くなって
母親も行方不明とのことで
つい
その中身を見てしまったのです
それを自分なりに解読したら
ミチはスターオーアイに
事故に見せかけて
暗殺されたのかなって」
|「《sN》もしかして
ミチさんのお父様って
レイルさんでは」
|「《tD》ええ
確か
そう言っていました」
|「《sN》レイルさんは
現在広く使われている
スターオーアイ製の
デバイスやアプリでは
スターオーアイが個人情報を
自国の利益のために
勝手に利用していることを知った
プライバシーポリシーなんて
長々と書いてあるけど
一般人には
それが何を意味するかなんて
正確な理解は難しく
守られているかどうかも
確かめようもない
さらにスターオーアイには
裏大統領令というのがあって
大統領のお気に召せば
法律も憲法もお構いなし
裁判になっても
裁判官の人事も操作可能
三権分立は崩壊し
民主主義は形骸化
実態は専制君主制となっている
そこでレイルさんは
ご夫婦で
スターオーアイに依存しない
我が国独自のデバイスと
通信体系を構築しようと
尽力されていた」
|「《tD》 … 」
|「《sN》実は私も
|理由《わけ》あって
その事故のことを調べているのです
偶然巻き込まれた少年の存在も
聞いたことがあるのですが
トデボ君だったのですね
レイルさんの娘さんと
恋愛関係だったとは知りませんでした
でも
スターオーアイがそのことを知っていたら
事故後の君への適切な医療は行われずに
亡き者にされていたと思うのですが…」
(つづく)
つづき は 9月3日に投稿の予定です。予約投稿日を設定して、少しずつ書き進めています。なので、作者になにかあった場合は、未完成の状態で投稿される可能性もあります。