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プリンの消失
なんとなく探偵をしたい気分ですわ。いい事件ありませんかしら?
刑事がやってきたところは豪邸だった。
どうやら、盗難事件らしい。というのは、電話口の言い回しが少々複雑すぎて盗難だか何だかよくわからなかったからだ。
森の中にぽつんと立つさまは、某テレビ番組がやってきそうでもある。
刑事の乗ったパトカーは、平らな道にくっきりと後をつけながら進んでいた。
「そう。|私《わたくし》、ちょうど事件を解決してみたいと思っていたところですのよ。この、消えたプリン(1000万円)の行方を解決してみせますわ」
待ち構えていた彼女はそう言った。
スルーしてお父様はどこでしょうか、と聞くが、お父様はいらっしゃらないらしい。
「では、お嬢様、あなたが見たことを伺いましょうか」
「|私《わたくし》が1時間前にプリンを確認したとき、それはまだありましたの。そして、|私《わたくし》、その後散歩に出かけましたわ。森の中を歩くのって楽しいですわ。怪しいのは、料理人のアンドリューですわね。彼女は本当に甘いものが好きですの。いつも一緒に食べるのですわ。その時、料理人のアンドリューはディナーを作っていましたの。煮込みシチューですわ。ずっとかき混ぜていないとならないのだけど、厨房から私の部屋まではどんなに急いでも2分程かかりますの」
なるほどなるほど。アンドリュー氏ではないと、と刑事は思った。
そこで小さな器に入った液体が運ばれてきた。
「お嬢様、味見を」
侍女らしき少女がそう言った。
「お嬢様、味見は、いつもなさられて?」
「ええ、もちろんですわ」
そう言って彼女はスプーンを握り、スープを飲んだ。
「うーん。これは、今までで最っ高の煮込みシチューですわ」
それを聞いて侍女は帰っていった。
「ところでお嬢様、あなたは、食べていないのですね?」
刑事は困ったように聞いた。
「あら、何を仰っておりますの?次に怪しいのは…。侍女のベッキーですわね。彼女、いろんなものを集めていますの。昨日も、|私《わたくし》の作った折り鶴を買い取りたいと言ってきましたわ。でも彼女、私と一緒に散歩したはずですわ。私は20分前に帰ってきて、その後一緒に着替えたんですの。着替えたあとに別れて、でもそれからは私が見張っていましたわ」
「なるほど、あとでベッキーさんに確認しましょう」
「後で?今すればいいですわ」
彼女がベルを鳴らすとすぐにさっきの侍女が戻ってきた。
「ベッキー、彼が、あなたに話があると言っていますの」
「はい」
そういえばこの人誰だっけという顔でベッキーが首を傾げる。
「ええと、あなたがさきほど散歩に行ったというのは本当ですか?」
「はい、もちろんです。お嬢様と一緒に行ってきました」
声が元気なようなのは気のせいだろうか。
「ありがとうございます。さて、お嬢様。ほかに屋敷にいたのはどなたでしょうか」
「他には誰も…。おかしいですわね。いえいえ、まだまだお父様がおりますわ。お父様がこのプリンを買ってきた本人なんですの。|私《わたくし》がお願いしたのですわ。お父様は仕事中でしたわ。でも、帰ってきてこっそり食べたのかも…。いえいえ、今日はパーティーがあるって言っていましたわね。パーティーを抜け出すなんて無理ですわ」
お父様は、パーティー中だと。なぜパーティーに出ている彼が通報したんだろうか、と刑事は思った。
「そのパーティーというのは?」
「ええと、どこかの商会だったと思いますわ」
「最後に、今日のおやつは美味しかったですか?」
「もちろんですわ。フワッフワのトロットロで、ちょっとした苦みが…」
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「まずお嬢様。あなたははじめにアンドリューとよく一緒におやつを食べると言っていましたね。あなたも甘いものが好きなのではないですか」
「ええ、もちろんですわ」
「そして、あなたは20分前からずっとここにいたと。一人で、ですね?その時、中は確認しなかったのですか」
「いえ。冷蔵庫はずっと見張っていたんですの。でも、中は見ていませんわ」
「いえ、あなたは見たはずです。食べられたのはあなた以外いないんですから。私が通ってくる途中、道にほかの車が通った跡はありませんでした。もちろん、この辺りには登山道もありません」
「あら。プリンは食べられたのではなく、容器ごと消え失せたのですわよ?」
「ええ、多分ですが、ベッキーさんが持っているのではないですか?」
「はい。そうなんです。お嬢様の食べたプリンが入っていたガラス容器は、ここにあります」
ドヤァ、とベッキーが言った。
「よって、食べたのはお嬢様ですね?」
「素晴らしいですわ。大正解ですの!」
お嬢様はそう言って、刑事に札束を握らせた。本人曰く、「ご褒美ですわ」
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刑事は何もせずに、札束を握ったまま警察署に帰ってくることになった。
「しょ、所長。なんてことやらせるんですか」
「やあ。察しがよくて助かるよ」
「いくら所長の家の取引先だからといって、職権乱用はどうかと…」
「まあまあ、事件が起こっていなくてよかったじゃないか。これからも励んでくれたまえ」
そして、刑事は自分の手の中身を見た。
「ああ、それは君が自由に使えばいい。ボーナスだよ。ほかに質問はないかい?」
「世の中には、一千万円のプリンっていうものがあるんですね」
「うん?あれは一個一万程度だったと思うよ?」
どうやら騙されたらしい、と刑事は思った。
えー。ミステリーです。ギャグに全振りしているのでトリックはないに等しいですが。