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Ep.6 突入準備
頭に鋭い痛みが走って、目を瞑る。いつの間にか、時刻は深夜の2時を回っていた。
椅子を少し引いて、伸びをする。肩を上げて、落として。そしてまた、青く光る画面の中へと意識を戻す。
南繁華街から帰ってきたのは、昨日の夕方頃。牧之段兄弟の騒がしい会話をBGMに離れの前で別れたのはいいものの、影と俺の間の空気は微妙なままで。というか、ほぼ俺が微妙にさせたというのが正しい。
明日は学校に行きたいと言った影の為に夕飯と風呂を早めに終わらせて、いつもなら有り得ない時間に寝かせた。その為、影が今夜やる筈だった仕事を俺が全てやらなければいけなくなったけど。今日の睡眠はお預けにするしかなさそうだ。
画面の端に赤いエラーコードが流れる。またか、とため息をついてから、不届き者に制裁をくらわすためにキーボードに手を添えた。
宵宮の情報を掴もうとする輩は、少なからずいる。宵宮の成り立ちからして、敵を作りやすいのは当然で。おまけに、国から正式に『特殊指定団体』として認められてしまった以上、他の似たような組織は一方的に恨みつらみをぶつけに来るわけで。直接何かをした覚えのないこちら側としては、迷惑以外の何物でもない。
「・・・よし」
赤いコードが元通りに青く光ると、また画面に静けさが宿る。いつもなら、これを繰り返せばいいだけだったが。
「・・・今日の突入は3時だっけか」
湖水の最西端。他勢力との境界線に位置するゴミ溜め。治安が比較的安定している他地域に比べ、まだ生活に苦しむ人々が多くいる。勿論、|宵宮《こちら側》を敵対視する人々も含め。
度々訪れるエラーコードを跳ね返しながらぐだぐだと待っていると、作戦時用の通信に着信が入る。ヘッドセットを装着してマイクを口元に引き寄せた。
【あーあー、潮ー?影はー?】
「寝てる。今日は俺だけだ」
【ざーんねーん。じゃ、今日もオペレートよろしくー】
「前みたいに頓珍漢な方向行くんじゃねぇよ、|飛鳥《あすか》」
|如月《きさらぎ》飛鳥。宵宮の作戦筆頭だ。飄々としているものの、腕はいい。・・・と思う。
「現場の指揮は予定通りお前に任せる。今日は五人だっけ?」
【そー、今日は乱闘騒ぎとかじゃないし。建物の外に万一で二人配置してる。潮も念のためだからねー】
「はいはい」
近くの監視カメラの映像をサイドモニターに映すと、屈強な黒服に囲まれている桃色の髪の男が、カメラに向かって口角を上げていた。
「気持ちわり」
【ひどー】
何とも思ってないような目で笑うもんだから気味が悪い。さっさと済ませようと、仕事の内容がまとめられたコピペに目を通した。
「作戦内容を確認する。今から突入するのはクスリの栽培をしている可能性があるアパートの三階最奥。見ての通りボロ家だし、他に住人がいないのは確認済み。中のクスリは全て処分。人がいた場合は制圧。処分が終わり次第アパートは取り壊される手筈になってる」
【りょーかーい。ねー、これ俺がやる意味あるー?】
「人手不足なんだ、我慢しろ」
【はーい】
現場の部下に指示をとばす様子を聞きながら、監視カメラの過去の履歴をチェックする。昨日の夜に確認したときは誰もいなかったが、今日は人が出入りする様子が確認できた。・・・二人。まだ出てきていない。・・・何もないはずの隣室にも出入りしている。
「これ制圧かも」
【えー、いる?】
「多分二人」
【めんどー】
ふわふわと笑いながら階段を上っていく姿に、ああ今日は疲れるやつだ、とため息をつきながら、新たなエラーコードを相手にするため、キーボードに手を添えた。
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