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第1話 少女りあ
空よりも高い場所にある「天界」は、とても静かなところです。
ここでは、争いもなければ、悲しい涙もありません。ただ、柔らかな光と心地よい風が、いつも誰かを祝福するように流れています。
そんな平和な世界に生まれたばかりの女の子、天音りあ
ふしぎな足あと
「あ……ぶ、ぶー」
りあは、真っ白な雲の廊下を、一生懸命ハイハイで進んでいました。
魔法が使えるわけでも、空を飛べるわけでもありません。ただ、目の前にある「自分以外のなにか」に夢中なだけです。
ふと立ち止まって、自分の後ろを振り返ります。
そこには、自分が通ってきたあとに残る、ちいさな、ちいさな窪みがありました。
「……あう?」
不思議そうに、その窪みに手を伸ばして触れてみます。
それはただの「自分の足あと」なのですが、りあにとっては世界で初めて作った「自分のしるし」でした。触れると少し冷たくて、でもどこか温かい。
りあは、それだけで嬉しくなって、「きゃはっ!」と声をあげて笑いました。
初めてのおともだち?
雲の上をさらに進んでいくと、そこには天界に咲く**「風の花」**が揺れていました。
花といっても、花びらは透明で、風が吹くたびに「カサカサ」と小さな音を立てる不思議な植物です。
りあは、その音に興味津々。
そっと指を伸ばしますが、力加減がわかりません。
ギュッ
「……あっ」
小さな手で握りしめると、繊細な風の花は、ポロッと茎から外れてしまいました。
りあは、壊してしまったと思って、少しだけ悲しい気持ちになりました。お顔をくしゃくしゃにして、今にも泣き出しそうです。
でも、その時です。
外れた花びらが風に乗って、りあの鼻先に「ちょん」と触れました。
「くしゅんっ!」
小さなくしゃみが一つ。
その拍子に、りあは自分が悲しかったことも忘れて、また笑い出しました。
特別な力なんてなくても、風と遊ぶだけで、りあの世界はこんなにも鮮やかに彩られます。
天界のひだまりで
遊び疲れたりあは、一番日当たりの良い雲のくぼみを見つけました。
そこは、まるでお母さんの手のひらのように温かい場所。
りあは自分の小さな手をじっと見つめました。
何もつかめないし、何も生み出せない、ちっちゃな手。
でも、その手は太陽の光をいっぱい浴びて、ぽかぽかと暖かくなっていました。
「ふぁ……あ……」
大きなあくびをして、りあは目を閉じます。
魔法も、不思議な力も、今の彼女には必要ありません。
ただ、明日もまたこの広い空の下で、新しい「なにか」を見つけること。
それが、小さなりあにとっての、一番大切なお仕事なのです。