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〖インクの契約者〗
今日のお題
『魔物開発』『文房具』『策略家』
僕はカナメ。中学三年生。将棋部の副部長で、頭を使うことが大好きだ。
でも、まさかその頭脳が、放課後の図書準備室で命がけに使われるとは思わなかった。
きっかけは一冊の古いノート。
表紙にこう書いてあった――
「記したもの、現実に顕現す」
意味がわからなかったけど、試しに「シャープペン」と書くと、目の前に新品のシャーペンが現れた。
「……嘘だろ」
まさかのチート文房具だ。僕は震えながら、さらに一文を書いてみた。
――《小さな黒猫》
すると、ページから黒いもやが立ち上り、小さな猫が姿を現した。尻尾の先がインクでできていて、床に滴が落ちていく。
「これ……生きてる?」
ニャーと鳴いた瞬間、僕の心は決まった。
――これはただの便利ノートじゃない。戦略を駆使すれば、無敵になれる。
でも、その時。
「ほう……噂どおり、手に入れたな」
振り向くと、クラスでトップの秀才・霧島アスカが立っていた。将棋部のライバルで、僕以上に策略家だ。
「そのノート、魔物開発局の極秘実験品よ。私も探してた」
「魔物……開発局?」
「そう。具現化したものは《魔獣》と呼ばれてる。君の猫もそう」
彼女は静かにガラスペンを取り出した。
「さあ、勝負しよう。このノートを賭けて」
「勝負……?」
「簡単よ。どちらかが降参するまで。武器は――このノートと文房具だけ」
冗談だろ!? でも、断った瞬間、彼女はページに一文書いた。
――《翼ある獅子》
本棚の間から、黄金のたてがみを持つ巨大な獅子が現れ、翼を広げて吠えた!
「くっ……!」
僕も慌てて書く。
――《鎖の蛇》
ページが光り、鉄の鎖をまとった蛇が床を這い、獅子に絡みつく。
「面白いわね」
アスカは冷静に次を書く。
――《蛇を断つ刃の風》
ヒュオッ! 風の刃が蛇を真っ二つにした。
「ちょっ……やば」
でも僕は笑った。これは将棋と同じだ。読み合いだ。
――《獅子の足元、奈落に沈め》
足元に黒い穴が開き、獅子の足が沈む。だがアスカは即座に――
――《獅子に翼で飛ばせ》
獅子が飛び上がり、奈落を回避!
(こいつ……一手先を読むのが早い!)
僕の脳はフル回転する。力勝負じゃ勝てない。なら――。
僕はノートに小さく、速く書いた。
――《獅子を裏切る影の牙》
すると、獅子の影から黒い狼が飛び出し、翼獅子に噛みついた!
「なっ……!」
アスカの目がわずかに見開く。僕は続けざまに書く。
――《影狼、獅子とともに奈落へ》
獅子と狼が絡み合い、再び奈落に沈む。
静寂が訪れる。アスカはページを閉じ、笑った。
「……参ったわ。あなた、本当に策略家ね」
「当然だろ。勝つのは頭を使う方だ」
そう言いながら、僕はノートを握りしめた。
だが、アスカの目はまだ輝いていた。
「その力、私と組まない? この国の魔物開発計画を、二人で乗っ取るの」
「はあ!?」
「考えておいて。君なら、きっと答えはYESよ」
夕陽に照らされる図書準備室で、僕はノートを見つめた。
――ただの放課後が、世界を変える戦いの始まりになるなんて、誰が予想しただろう。