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第十一話:新たな理の提示
ゼフィールの言葉に、グライアとゲネシスは同時に攻撃の手を止めた。世界の崩壊を加速させていた黒と白の力の衝突は収まり、張り詰めた静寂が場を支配する。
「ゼフィール様、本当にあるんですか?誰も傷つかない道が!」
シルフィアは希望に満ちた目でゼフィールを見つめる。
ゼフィールは、事態の収束を見届けた後、冷静に口を開いた。彼の頭脳は、この瞬間のために何億通りものシミュレーションを重ねてきた。
「ゲネシスが犯した禁忌は、『寿命』という絶対的な『理』への干渉だ。そして、グライアの主張する『秩序の回復』もまた正しい。どちらかを完全に否定することはできない」
彼は、懐から取り出した水晶玉に、新たな「理」の概念図を投影した。
「僕が提案するのは、寿命を神々が任意に操作するのではなく、一定のルールに基づいたシステムとして再構築する案だ」
ゼフィールの説明は理路整然としていた。
「ゲネシス、君は『生命の創造』という根源的な役割は持つが、個々の命の寿命に直接干渉する能力は封印される。命の始まりは司るが、終わりは司らない」
ゲネシスは驚いた顔をした。それは彼の理想主義の一部を否定するものだったが、同時に多くの命を救う希望も見えた。
「グライア、君は『死』の管理者としての役割は継続するが、生命の循環システム全体を監視するという、より広範な役割を担う。死は世界のバグではなく、システムの一部となる」
グライアは黙ってゼフィールの話を聞いていた。彼女の「理」は守られる。だが、ゲネシスから活力を奪うことにもなる。
「このシステムを維持・監視するために、|風《ルシフィア》や|天候《僕》といった自然の力が連携する。四神全員で、新たな理を支えていくんだ」
ゼフィールは淡々とメリットとデメリットを提示した。この案ならば、世界の崩壊を防ぎつつ、二人を罰することなく解決できる。成功確率は低いが、不可能ではない。
ゲネシスは、自分の理想が完全に叶うわけではないが、世界もグライアも救える道に安堵した。
「俺は構わない。俺の我が儘のせいで、グライアやみんなを悲しませるわけにはいかないから」
ゲネシスは潔く提案を受け入れた。
残るはグライアの判断だった。彼女はゼフィールの論理的な説明と、シルフィアの希望に満ちた瞳、そしてゲネシスの穏やかな笑顔を見て、長年心に課していた「柱神としての使命」という鎖が解けていくのを感じた。
「……仕方ない。その案で、世界の『理』が保たれるなら」
グライアは、いつもの冷たい口調で同意した。しかし、その目には安堵の色が浮かんでいた。世界の秩序は守られ、何よりも、愛するゲネシスを失わずに済んだのだ。
こうして、四柱の神々は、誰も経験したことのない「新たな理」の構築という、壮大な挑戦に乗り出すことになった。
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