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羽つき
カン、カン、と乾いた木の音がなる。花の絵が描かれている木の板で、羽根をぽんぽんとつく。
毎年、お正月にやっている羽つき。木の板に絵を描いた羽子板で、テニスのように遊ぶ。ラケットが羽子板で、テニスボールが羽根だ。落としたら負けで、顔に墨で一筆、落書きをする。落としやすいように、本当の墨ではなく、落としやすいタイプの墨を使っている。
毎年、エリとやるのが楽しみだったのに、エリは遠くに引っ越してしまった。周辺には足腰の弱いおじいさんだけ。一人っ子だし、家族は準備で忙しい。
お年玉に次ぐ楽しみがなくなってしまい、あたしはげんなりしていた。
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公園で1人で遊んでいると、
「あけましておめでとう」
と話す子がいた。全然知らない子だった。制服みたいにしゃきんとした服を着ていて、黒い髪をロングにおろしている。優等生っぽくて、どこかの私立の小学校から出てきたのかというくらい。
「あ、あけましておめでとうございます」
「羽つきが好きなの?」
「うん」
「じゃあ、やりましょう」
「本当?」
「ええ。わたし、どんな遊びも好きだから。わたしはレイ」
「あたしはカンナ」
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レイはなかなか強い。羽根を勢い良くついて、返せた数は両手で数えられるくらいだ。にこにこと、爽やかな笑みを浮かべて遊ぶレイが鬱陶しい。
「くそっ、手加減しろよっ!!」
「そうなの。ふふ、ごめんなさいね。遊びは本気でやってこそなの。本気でできないなら、遊び未満の行為だわ。頑張って」
暴言を思わず吐く。無意識に言っていて、だんだんとレイの表情が怖くなって来た。
そして、レイは言い放った。
「もう我慢ならないわ。そんなこと言うやつは、遊ぶ資格なんてない。これで終わりにしましょう。さあ、この《《あなたの魂》》を落とさないように頑張ってね」
「えっ?魂?」
ふふ、と笑うレイは、先程のような柔らかさはなかった。
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レイは本気を出したみたいで、手加減は一切していなかった。さっきよりも明らかに、羽子板をふる速度が速まってる。魂を落とさないように、という言葉がジョークとは思えなくて、必死になって羽根をつく。
死んじゃうのではないか。どうしたら、レイと別れられるんだろう?レイが落とすような羽根をついたら、レイが死んで、やめることができるのではないか。
「ふっ!」
そう、レイが叫んだ。その羽根は、今までの比じゃないくらいのスピードと威力を持ち合わせていた。
コン、と虚しい音が響いた。あとちょっとで、返せたのに。
羽根が、
|羽根《あたしの魂》が、
地面におちた。
「カンナ、バイバイ」
最期に聞いた声は、それだけだった。