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窓がなくてもブラインドを吊る
ざっとこのようなことが、ソナタの身には起きていた。明らかに異常事態だという自覚はあったのだが、ソナタは不思議と警戒心を抱かなかった。それよりも、今この廊下から抜け出すことの方に、よっぽど気を取られていた。
歩きながら、ソナタはまた思い出していた。コロニーに『転移』され、パネルから無音で文字のみの説明を受けた、そのあとのことを。
混乱の静まっている彼らは、誰からともなく、近くにいる五、六人で固まり、自己紹介をはじめた。
目つきの悪い短髪の男がゴジグと名乗った。二十八歳だと言った。
紺の上着を着た理知的な男がスゼルと名乗った。二十六歳だと言った。
肩までの髪を下ろしたおとなしそうな男がミドリと名乗った。二十歳だと言った。
まるい目をしたジャージの男がユオと名乗った。二十三歳だと言った。
金髪で端正なルックスの男がメリンと名乗った。二十五歳だと言った。
最後に、跳ねた黒髪でトレーナー姿のソナタが名乗った。自分も二十五歳だと伝えた。
六人は自然と打ち解け、しかしそこには確かに他人の距離があった。その距離からソナタたちは、他人同士の心地良い無関心さとあたたかな安らぎを感じた。
自己紹介を終えた者たちが連れだってスタジアムを出ていきはじめた。すぐにソナタたちもその気になった。部屋に行かなければならないと無性に思った。
このに来たのは初めてであるはずの彼らの足は、見えないなにかに導かれるように廊下を歩き、階段をのぼり、突き当たりを曲がった。他の誰もがそうだった。ソナタたちの部屋は少し奥まった場所にあったが、そこまで行き着くと、ひとりでに足は止まった。
壁と同じクリーム色のドアに、名前を記したカードが挟まっていた。正面からむかって右がスゼルとユオ、その奥がゴジグとミドリ、その正面にメリンとソナタの部屋があった。
彼らは顔を見合わせるとへらりと笑い、かるく手を振って自分たちの部屋に入っていった。
中はありふれたホテルのようなつくりで、白いシーツのかかったベッドがふたつ、褪せたようなピンクベージュのソファ、テレビ、テレビ、ローテーブルがあった。ブラインドが吊ってあったので外を覗いてみたが奥に窓はなく、壁が見えただけだった。
その後、食事は食堂で摂った。バスルームは部屋に備えつけてあった。毎晩メリンとじゃんけんをして勝った方が先に入った。
図書室もあった。喫煙室もあった。ソナタたちは労働もせずに暮らせた。一日の決まった時間にサッカーをすればいいだけで、その時間というのもそれほど長くはなく、他はまったく自由だった。ソナタは暫く彼女と会えないことに寂しさを感じていたが、じきにそれも感じなくなった。
ただし、いるはずの職員の姿は一度も見かけず、コロニーに集められた理由以外の説明はされなかった。
ソナタたちはすぐにこの生活に慣れていった。なにか道理にあわないと思うことはあるのだが、それ以上深く考える気は起こらなかった。