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最後まで手伝わせてくれ
特務課新人の職場体験、第五話。
ユイハside
その日、俺達はヨコハマを走り回っていた。
理由はルイス・キャロルが行方不明になったから。
探偵社の業務はひとつを除いて凍結し、全員で彼奴を探している。
もう、日は沈もうとしていた。
因みに凍結していない依頼というのは、ルイスが担当した政府からの案件。
社長や太宰治がポートマフィアに捜索を頼んだり、花袋と云う人がハッキングをしまくっていたり。
どれだけ手を尽くしてもルイスの痕跡ひとつ見当たらない。
あんな馬鹿でも、元英国軍で戦神と呼ばれる程の実力者だ。
本気で逃げようと思えば、逃げれる。
でも|異能空間《ワンダーランド》にはおらず、アリスも居場所を掴めていない。
鏡がない場所にいるのは、間違いないだろう。
敦『ユイハ君、此方は駄目だったんだけど……』
ユイハ「俺の方も駄目だ。やっぱり擂鉢街とか、裏組織に総当たりした方がいいか?」
ねぇ、と又三郎の空気が変わる。
敦『ユイハ君は、もう帰っても大丈夫だよ。これは探偵社の問題って、さっき太宰さん達と話し合ったんだ』
確かに、俺は探偵社員じゃない。
特務課でもない。
嘘ばっかだし、本物の仲間じゃない。
でも俺は──。
ユイハ「最後まで手伝わせてくれ」
敦『え……?』
ユイハ「職場体験で仮入社だとしても、俺は探偵社員だ。早く見つけるぞ」
???「君なら、そう云うと思っていたよ」
手からスマホが抜ける。
否、誰かに取られた。
犯人は声で判っていた。
太宰「ということで、ユイハ君は私達と共に行動するから心配いらないよ。君は鏡花ちゃんと引き続きお願いね」
敦『はい!』
電話が切られ、僕にスマホが返ってきた。
太宰「さて、これで君は一人で行動しなくて済むわけだけど──」
ニコニコと太宰治は黒い笑みを浮かべていた。
その後ろには帽子の男がいる。
思わず俺は後退り、少しでも距離を取ろうとした。
太宰「一人の方が色々と都合が良かったかな、ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ君?」
ユイハ「──ッ」
太宰「島も崩壊したし、君は消滅していたと思っていた。情報を色々と弄ってまで探偵社に来た理由は何かな?」
疑われている。
俺にとって太宰治はもちろん、ルイスも邪魔だった。
行方不明なのは俺のせいだと思われても仕方がない。
太宰「──!」
ユイハ「力を貸してくれ。俺一人じゃ、ルイスを助けられないんだ」
頼む。
そう俺は頭を下げていた。
太宰がどう思ってるかなんか知らねぇ。
ただ今は、俺に手を差し出してくれた彼奴を救いたい。
帽子「おい、どうするんだ?」
太宰「ユイハ君。私が此処に来た理由は判るかい?」
ユイハ「……判らない」
太宰「君が拐かしたか確かめるのと同時に、君の知識を借りたいからだ」
え、と俺は顔を上げる。
太宰「結果的に、スタンダード島事件では探偵社の勝ちと云えるだろう。しかし私は一度死んだようなものだ」
帽子「手前が一度死んだぁ!?」
太宰「あぁ、うるさい」
そう呟きながら、太宰治は資料を渡してきた。
何度も見た、政府からの依頼の資料。
そして見慣れない封筒。
中には、ある異能組織についての情報が入っていた。
と云っても、拠点ぐらいしか書いていないが。
ユイハ「これは……」
太宰「マフィアが探し当てた。此処にあの人はいる」
又三郎達に教えていないのは確証がない、からじゃないな。
相手の目的が判らない以上、下手に動けないのか。
敵が何処にいるか判ったものじゃない。
太宰「この組織は謎しかない。存在自体、都市伝説のようなものだ」
ユイハ「“七人の裏切り者”とか、戦争で有名な異能者を神とか云って崇める異常者の集まりだろ」
帽子「手前、知ってるのか?」
そりゃ、もちろん知っている。
ユイハ「ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ。七人の裏切り者の最後の一人。俺は、彼奴らに崇められる存在だ」
帽子「……つまり?」
太宰「君、そんなに頭悪かったっけ」
帽子「蹴り殺すぞ、手前」
太宰「出来るならやれば? ルイスさんが助けられなくなるだけだよ」
帽子「……チッ」
仲悪すぎだろ。
てか、そんなふざけてる時間ないんじゃねぇか?
太宰「残念ながら普通に潜入することは難しそうでね。中也と私ではどうしようもなかった」
ユイハ「……理由は」
太宰「対異能金属で作られた扉。そして合言葉が必要」
なるほど。
太宰「君ならどうにか出来るかと思ったんだけど、どうかな?」
無理、だとは云わせない雰囲気を太宰治は出していた。
ま、案がないわけではない。
でも、もしも政府に気づかれたら中々に面倒くさいことになるだろう。
太宰「作戦が思い付いたようだね」
ユイハ「あぁ。作戦自体にはそこまで大変なことはないが、証拠隠滅をしてもらいたい」
太宰「任せたまえ。私はこれでも社の信頼と社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男」
帽子「誰が手前を崇拝するか」
太宰「この帽子置き場は無視するとして、具体的な作戦を聞いても良いかい?」
帽子「無視するな!」
それから俺は二人に作戦を話した。
少し驚いていたものの、証拠隠滅は簡単にできるらしい。
ユイハ「そういえばアンタは?」
帽子「あ、自己紹介がまだだったか」
太宰「ちびっこマフィアの中也だよ」
中也「何で手前が俺の紹介してるんだ 」
あ、また喧嘩が始まった。
それにしても中也か。
確か“荒覇吐”の器の名前が中原中也だったな。
てことだが、後書きは一人でやることになるのか?
いいや、僕も居るよ。
…良いのか?
今、アンタ捕まってるだろ。
まぁ、ここはメタい場所だから。
そっか。
まさか中也君が出てくるとはね。
スタンダード島事件には居なかったから、初対面なんだね。
あんなにチビなんだな、中原中也。
子供の姿の君の方がチビだけどね。
そうだな。
あ、次回はルイスを救出するぞ。
残り二話。
最後までユイハに付き合ってあげてね。