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サンカヨウの花
いぇい
静かな小屋に、灯る赤い明かり。その部屋には、痩せた肌の白い一人の女、杏が住んでいた。ガタガタとなる椅子の足に布を敷き、段をなくして静かにする。
梅雨の季節に入ったことで、もとより雨の降りやすいこの山は一層湿った空気に包まれていた。
杏が窓の外を覗くと、ねずみ色に染まった空が涙を流している。
この小屋は木で出来ているため、ぴしょりぴしょりと、雨が独特のリズムを刻みながら家に入り込んでいた。
山の動物はすっかりいなくなっている。家族のいる家でゆったりと涼んでいるのだろう。
杏はふわりと微笑み、小屋の窓をキィと開けた。
入ってくる大粒の雨水に手をかざす。雨水はぷわと浮かんで弾けた。シャボン玉のようだった。浮かんでは、弾けて、浮かんでは、弾けて。杏があそんでいると、一つ、弾けない水のたまができた。
水のたまは雨音が激しくなった外へ出ていく。杏は窓を飛び越え追いかけた。
水のたまはスピードを増していく。病弱で運動などすることが出来なかった杏は、すぐに息を切らしてしまった。が、走り続ける。水のたまを見失わないように。
その追いかけっこが突然終わった。水のたまが弾けたのだ。どこまで来たのだろうかと見渡すと、そこには透明な花が並んでいた。
この時期に、花がこんなに咲いているなんて。目を疑うほど儚く、切なく、美しかった。
そこに、どこからか少年が現れた。
少年は、濡れた白い髪を手櫛でとかして、杏を見た。杏も踵を返した。
「お姉さん、どうしてここに来たの」
「どうしてかしらね」
少年も、その花のように儚かった。触ったら弾けてしまう気がした。少年の肌は白く、杏と同じく|病弱である《よわい》ことが分かった。
「きみも、どうしてこんなところに」
「さあ、わかんない」
曖昧な返事に、杏は思った。
この花と、何か関係しているんじゃないかな。
直感だったし、なんでそう感じたのかもわからないけれど、この花と少年は一心同体のように見えたから。
「この花の名前、わかる?」
「サンカヨウ。濡れたら花弁が透明になる、この世のものとは思えない花さ。」
「あなたとサンカヨウ、なんだか似てる」
「…そうかな」
少年は少し寂しそうに言った。目は翡翠色で、橙色のような色も混ざっている。少年こそ、この世のものとは思えないほど、ひどく美しかった。
そのとき、《《突然》》雨がやんだ。さっきまで大きな雨音を立ててザバザバ降っていた雨が、弾けて急にやんだのだ。
周辺の変わり様も凄まじい勢いだった。
小鳥はすぐに歌い出し、樹の葉も深緑色に茂り、蒼い空には太陽に照らされて虹ができた。
少年、と、杏が言いかけると、彼はもういなかった。
戸惑う杏のそばで、サンカヨウの花が、白く、雨露を垂らして光っていた。
私は今メッセージ性というやつを考えないようにしています。
まじで何が伝えたいのかわからんよね。うん私も。