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半額
ゴミ袋は、確実に膨らんでいた。昨日より、という比較はできない。昨日が存在するかどうかも曖昧だからだ。
それでも、袋の表面に浮かぶ皺の数が増えていることだけは、直感的にわかった。皺は規則的に寄り集まり、また離れていく。呼吸しているようにも見える。
近づくと、匂いが濃くなった。甘さは後退し、代わりに鉄に似た気配が前に出てくる。僕はなぜか、それを「懐かしい」と感じた。袋の口から、何かが零れ落ちている。
中身ではない。中身から剥がれ落ちた、概念のようなもの。土留色の液体。床に落ちたそれは、形を持たないまま、畳の目に沿って伸びていく。進行方向は定まらず、何度も詰まり、何度も引き返す。
その動きは、どこかで見覚えがあった。通勤時間帯の交差点。誰も悪くないのに、誰も動けない瞬間。僕は思い出した。この部屋に来る前のことを。