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#3 恋愛の悩み
|明日葉《あしたば》ひろむ、という名前を凝視する。
先日、またポストに悩みが投函されていた。6年4組の明日葉ひろむからの相談だ。
『|星河《ほしかわ》サラが気になっていますが、どうやって告白すればいいですか?』
正直、恋愛相談は考えていなかった。
「宙ぁ〜。これ、解決してよ」
「あ?……恋愛相談、か。星河ってあいつだろ?地味女子の」
「そんなこと言ったらダメでしょ」
星河サラ。物静かでおとなしい、と言えば聞こえは良いが、地味な子だ。名字はかっこいいのだが、本を読んでいない休み時間はないぐらい、本好きな子だ。逆に言えば、休み時間本を読んでいなければ、雪か霙か霰か降るぐらいだ。
明日葉ひろむ。彼も同様に地味で、ドッジボールには参加していない。休み時間はぼーっとしいていて、他の男子と変わっているが、讀書嫌いというのは変わっていない。
ベン図で『地味』しか積集合にならない2人。ひろむは恋愛に興味なさそうだったのだが、驚きだ。ちなみにサラは恋愛小説ではなく、ミステリーやホラー、グロ系しか読まない。
「どうすんのよ。わたし、人の心ないってどこかの誰かさんに言われたから、わかんないんだけど」
「道徳◎の人間がそんなこと言うな。俺は体育以外◯か△だ」
「それは努力していないからでしょ。努力したら、実るかもしれないし実らないかもしれない。でも、努力しなかったら確率0%」
「うるさいなぁ」
でも、本当にわかんないや。
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--- 宙目線 ---
結花が困っているのは目に見える。恋愛に疎いことも、すでに幼馴染として知っている。
だからこそ、結花はどんな行動を取るのかを知りたい。どうやって成就させるのか。好きなもので気を引くのか、はたまたデートか何かに誘うのか。
でも、どうせ俺に丸投げするんだろう。
「確率0%」
「うるさいなぁ」
そう思わず口走ったけど、その通りだと思った。
俺だって、努力すれば、《《結花と結ばれるのかも》》しれない。でも、できないから今の『親友であり、幼馴染っていうだけ』のポジショニングなんだ。
鈍感なところだって、一生懸命なところだって好きなんだ。俺が、言えないだけだからなんだ。本当は結花のことが好きだって言えない。だから、彼女は気づいていない。
言えたとして、それを彼女が「|like《友達として好き》」ととるか、「|love《愛する》」ととるかはわからない。でも、やってみなければ確率は0%。
__「俺だって、相談したいよ…」__
そうつぶやく。結花に届くかどうかは、当然届かないだろう。でも、これで0.01%でも可能性ができた。
でも、当然というように、その声は「え、今なんて?」という、純粋な結花の声にかき消された。
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--- 結花目線 ---
「さっき、なんて言ったの?いいアイディア?」
「いや、別に」
変なごまかし方。まあ、聞こえなかったのは事実だし。
「取り敢えず、ひろむに読書好きになってもらわなくちゃ。好きなものが同じなら、接近できるでしょ」
「接近って…」
「それか、サラがマンガ好きだったりしないかなぁ?そしたら、なんとかマンガ好きっていう積集合が持てるんだけど」
そう言って、6年4組の教室に来る。
「星河さん、いますか」
「…あぁ」
きれいな声の主・星河サラは、本を決して手放さなかった。
「マンガって好き?」
「…小説の方が。でも、『リアル人狼』はトリックがすごいから、マンガの方が好き」
リアル人狼…。あぁ、ちょっと前に村作紫央先生が連載していたマンガね。トリックがすごいとか、ちょっと言われてたみたいだけど。
「ただストーリーが早すぎる。テンポが良すぎる」
「へ、え…」
ひろむ、人狼ゲームは好きなんだろうか。
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昼休み、また6年4組をたずねる。今度はひろむを呼ぶ。
「あ、こんにちは。えっとぉ…」
「大橋結花と足立宙。突然だけど、『リアル人狼』ってマンガ、好きですか?」
「あぁ、ちょっと話題になってましたよね…。ちょっと読んでみました。割と面白かったです」
「星河さんも、それ、好きよ。悩み委員会として、取材したから。話してみたらどう?」
「そ、うなんですか」
「あと、敬語はやめてね。ちょっと距離を感じる」
いっつも、男子らったらわたしと敬語で話すからね。もっと馴れ馴れしくした方がわたしは嬉しいし。
「わ、わかりまし…ありがとう」
「うん」
そう言って、6年4組を後にする。
「結花、」
「ん、何?」
「……いや、今日、俺全然活躍してなくね?って」
「ほんとそうよ。いやぁ、『リアル人狼』好きで良かったわ。今度読んでみよ」
確か、図書室にあったはずだ。今度、借りて読んでみよう。