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夕暮れのひみつ基地と、空飛ぶ木の実
今回はアイドルなしの、ほっこりするお話です
森の大きなクヌギの木の上には、だれにも内緒の「ひみつ基地」がある。
そこに暮らしているのは、大きな目がチャームポイントのフクロモモンガのモモ。そして、その木の下の根元に住んでいるのが、のんびり屋だけど心優しいハリネズミのハリーだ。
体も、住む場所も、得意なことも全然ちがう2匹だけど、大の仲良しだった。
「ハリー、おーい! 今日もいい天気だね!」
夕方、目を覚ましたモモが、木の上の特等席から身を乗り出して手を振る。
「あ、モモ、おはよう。……ううん、僕たちにとっては『こんばんは』かな?」
ハリーが丸い体をゆらしながら、地面から見上げて微笑んだ。モモは夜行性だから、夕方が一日の始まりなのだ。
二人のすれ違い
ある秋の日のこと。2匹はひみつ基地で、森で一番おいしいと言われる幻の木の実「コハクの実」を食べる約束をしていた。コハクの実は、夕日が沈むほんのわずかな時間だけ、キラキラとハチミツ色に輝く不思議な木の実だ。
「ハリー、僕、一番おいしいコハクの実を探してくるよ!」
モモはそう言うと、自慢の皮膜(ひまく)をいっぱいに広げ、風に乗ってジャンプした。夕暮れの空をスーッと美しく飛んでいく。
一方、地面にいるハリーは、モモのように飛ぶことはできない。
「いいな、モモは。あんなに遠くまで一瞬で行けて……」
ハリーは少しだけうらやましく思いながら、トコトコと短い足で歩き出した。モモが戻ってくるまでに、ひみつ基地をきれいに飾りつけして驚かせようと思ったのだ。ハリーは得意の針を上手に使って、色鮮やかな落ち葉をたくさん背中に刺して集めた。
ところが、ハリーが基地の準備を終えて待っていても、モモはなかなか帰ってこない。
「どうしたんだろう……。もうすぐ夕日が沈んじゃうのに」
トラブル発生!
その頃、モモは焦っていた。
森の奥の崖の上で、最高のコハクの実を見つけたまではよかった。しかし、欲張って大きな実を両手で抱えたせいで、うまく風に乗れず、下のトゲだらけの茂みに落ちてしまったのだ。
「う、動けない……。トゲが羽に引っかかって、飛べないよ……!」
もがけばもがくほど、トゲが絡みつく。太陽はどんどん沈んでいく。
「ハリーとの約束があるのに。このままだと、コハクの実が光らなくなっちゃう……」
モモが泣きそうになっていた、その時だ。
「モモーー! どこにいるのーー!?」
遠くから、聞き慣れた声がした。ハリーだ。いつもはのんびり屋のハリーが、息を切らして走ってきたのだ。木の上からモモが飛んでいく方向を見ていたハリーは、異変に気づいて追いかけてきてくれたのだった。
「ハリー! 来ちゃダメだ、ここはトゲがいっぱいで危ないよ!」
「大丈夫、僕にまかせて!」
ハリーはきゅっと目を閉じると、体をボールのように丸めた。そして、トゲの茂みに向かって、勢いよくゴロゴロと転がっていったのだ。
バリバリバリッ!
ハリーの背中にある固くて丈夫な針が、モモを苦しめていたトゲの草を、次々となぎ倒していく。ハリーの針は、トゲの痛みをまったく寄せ付けなかった。
「ふう、お待たせ、モモ!」
顔を上げたハリーの鼻の頭には、少し泥がついていたけれど、最高にかっこよかった。
「ハリー、すごい! ありがとう!」
最高の「こんばんは」
2匹は急いでクヌギの木のひみつ基地へと戻った。
ハリーが飾りつけた色とりどりの落ち葉のステージに、モモが命がけで守ったコハクの実を置く。
その瞬間、山の向こうに夕日が沈み、最後の光が実を照らした。
「わあ……!」
コハクの実は、まるで小さな太陽のように、優しく、温かいオレンジ色に輝き出した。あたり一面が、あま〜い香りでいっぱいになる。
2匹は顔を見合わせ、半分こにしてコハクの実をかじった。口の中に、とろけるような甘さが広がる。
「僕、ハリーみたいに強くてかっこいい針があったらいいなって思ったよ」
モモが実をモグモグさせながら言った。
「僕は、モモみたいに空を飛べたら素敵だな、っていつも思ってるよ」
ハリーも嬉しそうに針をゆらす。
「お互い、自分にないものを持ってるから、助け合えるんだね」
すっかり暗くなった夜の森。ひみつ基地の窓からは、満天の星空が見えていた。ちがう動物だからこそ、最高の相棒になれる。2匹は並んで、新しく始まった夜の時間を、いつまでも楽しそうに過ごした。