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とある都市の剣士様
「この先の森は|不死者《アンデッド》の大軍の根城になっている。ここを通るなら明日の日が昇ってからがいい」
俺、アクレアは夕方になって亡者の大森林を通ろうとした女冒険者を引き留めた。
「え、あ、もうこんな時間ですか? 分かりました。ところで、この近くに宿屋のようなものはありますか?」
「ああ、俺の住んでいる都市にある。歩いて三時間くらいだ」
俺は分かれ道の左を指さした。右に行けば亡者の大森林、左に行けば俺の暮らす中規模都市オーチデンス。大陸の西側。中央の高原地帯よりもやや西にある交易都市だ。
「なんなら俺が送ってこうか?」
俺はその女冒険者に聞いてみた。この時間だと、大森林のモンスターが出てきても不思議ではない。ソロの魔法使いが一人で行くには危険だ。
対処が出来ないという訳ではない。見た感じ冒険者ランクはシルバー。若手冒険者の割にはランクが高い。
「あ、ありがとう御座います! 私の名前はリラって言います!」
紫の瞳に丸眼鏡。ダボっとした魔力バフ用のローブ。左手には等身大の杖。それには琥珀が挟まっている。
「俺はアクレア。この辺りでモンスター狩りしている。オーチデンスの封魔、|氷結の竜《フロスト・ドラゴン》の復活が予言されて早二年。いつ復活してもおかしくはないからな。その影響か、最近、モンスターの動きも活発になっている。気を付けたほうがいい。っと、今のは要らない話だったな。早く進もう。この辺りは夜になると寒い」
俺は少し早歩きで歩き出した。何でかって? |不死者《アンデッド》が怖いからだ。だって|動死体《ゾンビ》とかグロくて怖いじゃん!
遠くで|闇の狼《ダーク・ウルフ》の遠吠えが聞こえた。俺達が見つかったか。
|闇の狼《ダーク・ウルフ》は|狼《ウルフ》族のなかでも特に縄張り意識が強い。
「急ぐぞ」
俺はそう小さく呟いてリラの手を引いた。
「なっ、何でですか⁉」
「|闇の狼《ダーク・ウルフ》の遠吠えが聞こえた。そうしないうちに十五匹くらいの群れでやって来る」
「えっ、嘘!」
俺が街道を走っていると、前から黒い影が飛んできた。
「チッ、遅かったか」
俺は背中から剣を引き抜いた。爺さんの譲り物で鋼にミスリルのコーティングを施した片手用直剣。
「下がっといて」
俺は一歩目に踏み込んだ。すでに数は増え、三体。
「っ、街の客人を! 傷付けさせる訳にはいかないんでね!」
剣を大振りに縦からの一撃。俺に直接向かってきた犬っころに直撃し、紫とも、黒とも取れる煙を上げ、四散する。
そっちに気を取られている間に背中に激痛が走った。
鉤爪で引っ掻かれたか。
「|光り輝く爆弾《シャイニング・ボム》!」
大きな光の球が俺の頭上を通り抜け、狼の周りに着弾し、轟音を立てて破裂。
「ナイス」
その魔法により一掃された狼は骨も残らず消え失せた。
「はい、ここが俺の知る限り一番コスパがいい宿だ。俺の友達が経営してるからちょっと顔合わせてくる。それじゃ、じゃーね」
俺はそこまで案内し、彼女の感謝の気持ちを受け取ると、木戸のノブを捻った。
「おーい。ルリアル。久しぶり」
「ん? おお、アクレアかー。んで、そっちはお連れか? なるほどな。ならカップルセットだな? 銀貨二枚だ」
「おい。俺はちゃんと自分の家持ってるし。それに、そう言うつもりじゃないからな!」
「分かってる分ってる」
「じゃ、俺はもう帰る。あとはよろな」
「ん」
カランカランと音を立てて木戸を押し開けた俺は夜の街を疾走した。
遠くでドガーン! という音がした。周りの通りを歩いていた人たちも音がした方を見る。
赤の鱗に長い牙。口から飛ばす火球に、大きな翼。賢者の大山脈に封印されし封魔竜‥‥|炎の竜《フレイム・ドラゴン》!
「急がなきゃ!」
俺は都市長のいる中心地へ急いだ。
「父さん! |炎の竜《フレイム・ドラゴン》が!」
「ああ、分かっている。憲兵には一般人の避難を誘導させろ。冒険者や魔導騎士を集めろ!」
父さん。オーチデンス都市長。
「アクレアは好きなようにしろ」
その言葉を待っていた俺は、その都市長執務室を飛び出した。
「大変だ! |氷結の竜《フロスト・ドラゴン》が!」
ドラゴン。それはこの大陸に存在するどのモンスターよりも強い魔獣。ドラゴンは自己生殖機能、増殖機能を持たない為、増えることは無いが、《絶対不死性》の種族能力により殺せない。
そのため、これまで幾たびも勇者が挑んでは封印しを繰り返してきた。
「剣技|火炎の刃《ファイヤ・ソード》」
左手に魔力を集め、右手で握る剣に塗るように付けた。そうすると剣が炎を纏い始めた。
「|下級物体召喚・鋼鉄の盾《サモン・ロークラス・オブジェクト・スチール・シールド》」
これで俺ができる最大限の準備は出来た。
本来、いかに上級冒険者で一時は西部最強と名を轟かせた剣士であろうと、ドラゴンに一対一で戦いを仕掛けてはいけない。
「|火球《ファイヤ・ボール》」
俺は剣の先から炎を球を撃ち込んだ。|氷結の竜《フロスト・ドラゴン》は炎に弱い。
「|氷結無効《アンチ・フロスト》! |冷気無効《アンチ・コールド》! |飛行《フライ》!」
下から俺にバフを付与する魔法が聞こえた。恐らくはさっきのリラだ。
「ガアアア!」
絶叫しながら風に乗り、ドラゴンの背に飛び乗った。
本来ならその寒さで俺は凍死しているだろうが今は違う。
「|上級物体破壊《アドバンス・ディスラクション・オブジェクト》!」
俺は今使える最大限破壊の魔法を行使した。ドラゴンの背を覆っていた氷塊がはじけ飛ぶ。
炎に包まれた剣を、その隙間に差し込む。
断末魔を上げながら絶叫するドラゴンに振り回されながら俺は必死に空を泳いでいた。
ドラゴンの背に刺さる、俺の剣が折れない限り、俺が落ちることは無い。
「剣技|火球爆発《ファイヤボール・ボム》」
俺の剣の先に火球が生まれ、それがドラゴンの体内で爆発する。
ドラゴンはたちまち、落下。民家を破壊した。
「司祭団を呼んでくれ。封印する!」
俺はそう住民に叫ぶと、もう一体のドラゴンの|炎の竜《フレイム・ドラゴン》の方へ向かったが、それは既に魔導騎士により処理されていた。
翌日にはその噂でもちきりになった。ドラゴンを一人で討伐した剣士が居る。
そんな噂が西部に留まらず大陸全土を駆け巡った。
こうなると恥ずかしくて家から出られない。そう言いたいところだが、俺の家はどうやら|氷結の竜《フロスト・ドラゴン》の下敷きになっているようなので、いつも通り、森へ出かけることにした。
「あ、リラ。もうドラゴンは居ないからこの森通れるぜ」
そう俺はいつも通り、暇になれば通行人に話しかけている。
大陸の冒険者たちは俺をこう呼ぶ。
”とある都市の剣士様”と。