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#5 入部希望の転校生
ふぅ、心葉ちゃんとは喋れなかったや。
そう思いつつ、わたしは20分休み、悩み室に来た。昨日転校してきたばかりの彼女は、わたしだけが合いそうなタイプだ。
いつも通り、ポストをガシャガシャやる。最近、来てないからいいんだよね…
『入部希望。面接は木曜日の昼休み、ここでどうでしょうか。 6年鈴原心葉』
…前言撤回っと。
明日か、木曜日って。
「宙〜。なんか、入部希望がいるんだけど」
「えぇ?まあ、俺は……いいっちゃ……いいけど」
「はっきりしなよ」
でも、悩み委員会以外のとこ行くと思うんだけどな、ふつう。というか、なんで悩み委員会、知ってるんだろ?
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「そう、なんですか…」
村木先生も、さすがに戸惑う。あはは、と苦笑い。
一応、どこの委員会も入って良いのだ。なのに、なんで悩み委員会なんて…
「まあ、いいんじゃないですか?」
うーん、曖昧な返事。許可はしたから、あとはあなたたちに委ねます、って感じだ。
「というか、悩み委員会って担当の先生とかいないんですか」
「いや、いません」
「わかりました」
委員会に面接。どれだけまじめな子なのだろう。
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木曜日の昼休み。わたしは一足先に悩み室に来ていた。
ちゃんと3つあるデスクの2つを奥に配置し、4つある椅子の1つも奥に配置。よくある面接のように、わたしはセットした。もちろん、宙もだ。
コンコン、とノック。
「どうぞ」
緊張する。
「失礼します。鈴原心葉です、よろしくお願いします」
「えーと…なぜ、この委員会に入ろうと思ったんですか?他に、図書委員とか、あったはずなんですが」
宙の敬語は、ちょっと違和感がある。
「はい。わたしはもともと、小説を書くのが趣味です。その小説を通して、悩みを解決できる。そんな存在になりたいんです。図書委員は、あんまり小説の良さを伝えることはできないじゃないですか」
この人は、本当に本が好きなんだな。
「えーと…」
宙とアイコンタクトをとる。
「合格、です」
あまりにもあっけない合格発表。
「本当ですか、ありがとうございます」
にっこり微笑んだ彼女。彼女のメガネの奥は、確かに笑っていた。
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心葉はあっという間に馴染んだ。まあ、ふたりだから馴染むもなんもないが。彼女はメガネの奥を光らせて、まじまじとぶ厚めの文庫本を読んでいる。
わたしが毛先をクルクルさせて遊んだり、宙が課題をせっせと終わらせてたりするときもお構い無し。
「失礼しますっ」
柔らかそうな感じの先生が、悩み室に入ってきた。
「えと……」
「優月彩音です、今日から悩み委員会の担当をするわ、よろしくね」
そうにっこり微笑んだ優月先生。
「委員会のメンバーは…大橋結花ちゃん、足立宙くんと…あと、鈴原心葉ちゃんでいいわよね」
「ああ、そうです」
そう返事をした宙は、また鉛筆をカリカリ走らせた。心葉は何もなかったかのように、本を読み続ける。
「心葉って、読むのも書くのもするの?」
「そうだ。小説を読むことで、書くコツがわかる。書いてみて、どう表現したらいいかわからなかったら、小説を読む。そうすることで、二刀流になることができるんだ、大橋」
敬語じゃないあたり、もうすっかり慣れている。
あと、小学生で苗字だけで呼ぶのはなかなかレアだ、と思う。
「ちなみに、今は何読んでるの?」
と、優月先生。
「まあ、『そして、バトンは渡された』とか、『容疑者Xの献身』とか、そんなとこです」
___なんとなくだけど、悩み委員会が多様性を持った気がする。これで、いろんな悩みに対応できるのかな。