公開中
噂の館へ招かれて
「お互い自己紹介からいこうか。僕はカラン。デザイナー兼魔術師をしている。君も同じ魔術師だろう?」
一瞬で魔術師であることを見抜かれてしまった。同じ魔術師でも格が違う。これまでの経験の差が高い壁となって立ち塞がっているような圧を感じる。本業がデザイナーであるだけあって自身の服も自分でデザインしているのだろうか。ノリの効いたシャツにワインレッドのベストを着ていた。ベストのボタンが照明に照らされて輝いている。
「アリフェ・モカメリアです。魔術師でルーフと共に旅をしています」
「モカメリア……どこかで聞いた名前だ。どこだったか。魔術師とオオカミ、実に面白い組み合わせだね。で、君は『噂』の真実を暴きに来たわけだ」
「そうですね。人形がいるって本当なんですか?」
そんな風にずけずけと聞いてもいいものなのがとルーフは尻尾をぱたつかせている。
「いかにも。ここの給仕は皆僕が作った人形だが、何か問題でもあるのかね?」
何も答えられずにいるとドアをノックする音がした。
「どうぞ、入って」
タイミング良く開かれたドアから姿を見せたのは先程の給仕だった。ワゴンにはティーセットとケーキスタンドが乗せられている。
「紅茶とクッキーをお持ちしました」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
精巧に作られた青年の人形は人間の姿と相違なく自然に見えた。首元の宝石と瞳の色が同じように輝いている。その輝きにアリフェは見覚えがあった。
「お人形さんの動力源は魔鉱石ですか?」
「ほう、よく気がついたね。この人形たちの動力源は魔鉱石だが、少し特殊でね。僕が少し手を加えて固有魔法を使えるようにしたのだよ。ロベリー、すまないがスインを呼んできたまえ」
「分かりました」
魔鉱石の固有魔法、その名の通り魔鉱石に刻まれた固有魔法で扱うのが難しいため高等魔術に分類される。「手を加えた」というのは人形が魔法を使えるようにという意味合いなのか。アリフェが考えているとカランが口を開いた。
「聞かれてばかりでは面白くない。今度はこちらから質問しよう。君は魔術、好きかね?」
「好きですよ。魔術師ですし、幼い頃から触れてきたものなので」
「そうかい。幼い頃からというのは両親の影響で?」
「それもそうなのですが、憧れている人がいて憧れの人が魔術師だったというのもあります」
「憧れの人……魔術師……かの有名なブバルテかい?」
「よくご存知で」
談笑しつつお茶を飲み数分、再びドアがノックされる。
「いいよ、入って」
入ってきたのは先程出ていった給仕の青年と似た可憐な少女だった。
「お初にお目にかかります。スインです。アリフェ様、以後お見知りおきを」
「ノコノコとやってきて道に迷ったらしい。無事に元の場所に帰れるように1つ魔法を。長く留め過ぎたかもしれないが恐らく大丈夫だろう」
懐中時計を確認しながらカランはそう言った。「長く留め過ぎた」とはどういう意味だろう。質問をしようとしたアリフェよりも先に話し出したのはスインだった。
「はい。アリフェ様、失礼します」
返事と同時にスインと名乗る少女の瞳と首元の宝石の輝きが増した。
スインノ名ノ元ニ魔鉱石の力ヨ彼ノ者ニ迷イ無キ加護ヲ |道標ノ光《ガイランス・ライン》
魔法陣が展開されると強い光を放ち辺りが真っ白になってきた。
「これって空間魔法……ですね」
だんだんと意識が遠くなる。誰かが何か言っている。
「普通ならここまで来られないはずなのだけど、君は来ることができたんだ。気が向いたらまた訪れたまえ。次は君の服を仕立ててあげようか。その日までさよなら、アリフェ」
言い終えるとカランは少し微笑んでいるような気がした。スインは深々と一礼している。それがアリフェが見た館での最後の光景であった。
カラン・フバリア
デザイナー兼魔術師
性格に癖があるが、繊細で情熱的な作品を作り上げるデザイナー。魔術師としての技術も高く魔鉱石の加工ができる数少ない人物。
ロベリー&スイン
カランの作り上げた双子の人形。ロベリーが青年、スインが少女の姿。動力源の魔鉱石で固有魔法が使える。お茶の時間がお気に入りらしい。