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空蝉
ぼうっとしていたらいつの間にかホームルームが終わっていて、数学の授業に入っていた。あんまり数学は得意ではなく、さあっと流れていく様子を、ただ見ているだけだった。
〝へ〜…都市伝説?七不思議?〟
さっきの清美のことを思いだす。
都市伝説といったら、大抵幽霊だ。ある日ひょっこり現れて、そのまますうっと去ってゆく。そう考えたら彼女に当てはまりすぎて、本当にこの世のものなのかと疑う。
今日の昼休みは、清美といくことになる。いつもがらがらの図書室に、1人増えることになった。
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図書室は案の定すいていて、本が見える。むしろ、本と棚ぐらいしか見えない。
「こんなところだったっけ。なんか、狭い」
「そうかな」
小学校の図書室と比べたら、確かにぎちぎちに本が挟まっている。読むスペースも限られているし、棚に窮屈そうに本がおさまっている。通路も狭い。
そんな狭いところに、彼女は座っている。
「あの子」
小声で言う。あんまりおもしろくなかった本を返すと、「へぇ、あの子が」という清美の呑気な声が返ってきた。
「2年生かな」
「かもね」
そう言って、わたしは新しい本を吟味する。
「清美は何借りるの?」
「借りないけど…ま、いいのがあったら。児童文学でもいいから貸してよ」
「あ…」
小5のときによく読んだ本を指さすと、素直に取り出した。
「面白い?」
「うん」
面白いに決まってんでしょ、という言葉は嫌われるのでどっかに吐き出す。
「声かけてみる」
そう清美の顔を見て、彼女の方を見る。
「あ…?」
いなかった。
お団子ヘアの女子なんて、いない。
「いないでしょ」
「え?ほんとだ。なんでだろう」
何故かを知れるのならば知りたい。
「…いたよね」
「うん。いた」
不思議だ。本当に不思議だ。
「あのぅ」
借りるついでに、カウンターの図書委員に声をかけた。
「はい?」
「いましたよね、お団子の女子…2年生の子…」
「え…?ああ、いました。帰ったんですかね、わたし、本読んでたから」
まぁ、図書委員の暇つぶしといえば読書以外にないだろう。そうすれば本に夢中になって、周りなんて見えやしない。
「あの子って、知ってます?」
「いえ、知りません。時々見かけるんですけど…」
「あの子を探してるんです。読んでる本とか、好きな作者とか聞きたくて。何組かとかも知りませんか?」
「全然。まあ、わたしは1年生なんだけど、見たことないし。ほら、わたし、安野小から来たから」
1年生だと知った瞬間、途端に敬語がするりと抜ける。
安野中学校は、主に安野小学校と|三田井小学校《みたいしょうがっこう》から構成される。三田井小は、安野小と比べれば小さい。
「あー…まぁ、また探してみる」
「そうしてみたら」
そう言って、わたしと清美で本を借りた。
図書室最高