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19.クランは、自分の限界を見極めたい
土曜日になった。
金曜日は、魔術の授業の後、特に何も無かった。
昼食休憩ではブライアンの練習を見て、少し手伝ったり、授業を受けたり。そして、相変わらずアロバンには睨まれたままだった。
それどころか、より睨まれるようになってしまっている気がするわ。
……本当に、わたくしが何かしたかしら?
未だ、分からない。
それはともかく。
今日は、またファブローの森に行って、オグルの集落があるのかを確認すること、これが目的にしようと思っていたのだけど……
一人で森に集落があるかないかを探るのって、とっても大変なのよね。
だから、諦めて、わたくしの魔力の限界がどうなっているかを見極めようとしているわ。
昼食は、サリアに作ってもらった。
これで、一日中外にいられる。
わたくしは、ブライアンと出会った広場の方へと向かっていった。
「確か、今日はブライアンはちゃんとした場所を借りて練習しているのよね?」
それだったら人はなかなあいなさそうね。
わたくしのそんな予想の通り、広場には誰もいなかった。
「さあて、じゃあどんどん魔術を使っていきましょうか」
人は、必ず魔力を持っている。
多い人は多い、少ない人は少ない。これは、すべて神々が運で決める。
そして、大きな魔術を使う際、緻密な作業を行う魔術を使う際は、魔力をたくさん使う。
そして、魔力が切れたら、空腹を感じ、動けなくなる。
わたくしは魔術を限界まで使ったことはないけれど、これは習うことなので知っている。
そして、確かに昨日の魔術の授業、わたくしの魔力は減っていた。それは確かね。だけど、どれくらい減っていたか? それを聞かれると、自身を持って答えられない。
わたくしは、もっと強くなれる。
この学園では、わたくしよりも強い人がいるのだ。だから、強くなれる。そう思うのだけど……
実感はない。
だから、まずはその一貫として、限界を見極めてみようと思ったのだ。
「水よ、雪となれ!」
この魔術の範囲は、今までに使ってきたものの比じゃないくらい広い。
もちろん。学園の中の人には迷惑をかけないように、ファブローの森の方に向かってやっている。
そして、雪の量も増やしている。
……半分くらい減ったかしら?
だんだんと雪の量を増やしていった結果。
わたくしは今、吹雪の中で火を灯し、暖を取りながら昼食を食べている。
自分が作った寒さから実を守るためにまた魔術を使う……
矛盾しているわね。
雪は、もう、地面に積もっている。
……わたくしが灯している火の周りは、暖かく、雪も積もってはいないけど。
ふふふ、これなら雪で遊ぶことも出来そうね。
やってみようかしら?
そんなことを思ったとき。
「火が見えるぞ!」
「誰かいるのか!?」
そんな声が聞こえてきた。
火、ねえ……わたくしが出している火で間違いはないかしら?
分からないけれど、しばらくしたらこちらにたどり着くでしょう。
「やっと着いた……。お前、何をしているんだ?」
男性二人に話しかけられた。
「え? 何をしているって……雪を降らせて、風を起こして、火を灯しているだけよ?」
「そうか……なんでそんなことをしているんだ?」
「魔力を空っぽにしてみたいの」
「はあ? なんだ、その要望は? 理解できるか?」
「できるわけねえだろ」
「それより、わたくしも聞きたいことがあるのだけど……なぜここに来たのかしら?」
「ここらへん一体だけ雪が降っているからだよ!」
「ここの学長に見てこいと言われたんだ!」
「あら……そうなの? 大変ね。お仕事お疲れ様です」
「おい!」
「抑えろ。こいつは常人じゃない」
「そうだな……」
「それで、この雪はいつになったらやむんだ?」
「あら? 説明しなかったかしら? もちろん、わたくしの魔力が空っぽになるまでよ」
「あとどれくらいだ?」
「そうね……朝からしているし……3時くらいまでよ、きっと」
「分かった。そう伝えておく」
まったく。なんのためにあの二人を寄越したのかしらね?
また、しばらくが経った。
さっきのことを教訓に、わたくしが雪を降らしている中に物が入ってきたら認識するように心がけていたのだけど、そのお陰で、森の方から何かが入ってきたのを感知した。
魔物かしら? こんなふうに魔力を使っている中で魔物が現れるなんてね。まずは剣で対処しようかしら?
わたくしは、この前オグルに出会ったことを頭の隅に追いやって、そんな事を考えていた。
……その魔物を見るまでは。
「あれは……インプ? 水色だし、きっとニクスインプね」
その魔物が見えて、わたくしは呟いた。
この前辞書で見たわ。見たのはアクアインプだったけれど、その説明にニクスインプもあった。見た目も似ているし、きっとそうよ。
……そして、彼らには物理攻撃が効かない。
わたくしは、今まで構えていた剣を下ろした。
そして、魔術を放った。
『アクアインプ
水辺の近くに出没する、緑色の推定討伐人数200人の魔物。物理攻撃を無効にする。水属性が得意。ただし、頭の上の皿は弱点。
また、アクアインプは主に夏に出没するが、似たように物理攻撃無効の性質を持ち、頭の皿を弱点とするものに、ニクスインプは冬に出没する。季節もそうだが、こちらは水色であり。色で識別できる』
書いてあったことを思い出す。
狙うは頭の皿!
見るに、頭の皿は氷で出来ているようだから、これを燃やせばいいわ。
わたくしは火魔術を放った。
だけど、水魔術の防御魔法によって防がれる。
「ふふ、昨日のフィルゲとの戦いと比べれば、とても簡単だわ」
わたくしは、火魔術を連続して放つ。
やがて、ニクスインプの防御魔法は破られ、頭の皿の氷は溶かされ、蒸発し。ニクスインプは見るからに弱くなった。
そこをわたくしが叩かないわけがない。
わたくしは、思っていたよりもあっさりとニクスインプに勝ってしまった。
どうせ、またこれも神々が何かをしたんでしょうね。
一体どういう目的でやっているのかしら?
そのことが、異様に気になった。
その後、ニクスインプとの戦闘の甲斐もあって、魔力は思っていたよりも早く空っぽになってくれた。
……これは、確かに空腹を感じるわ。
魔術は自然と止まったので、わたくしはさっさと寮へ帰ることにしたのだった。
ニクスインプを先生のところに持っていってから。
そういえば、先生から手紙を預かっていたわね。今まで忙しくて読むのを忘れていたわ。
今は確か家にあるのよね。
なら、帰ってから読みましょう。
それとは別に、もう一つ手紙も届いていた。
わたくしをそれを読み……それで手紙を読んだ気になってしまい、ヨーゲルン先生の手紙のことをまた、忘れてしまうのだった。
『クラン様へ
ガルーダに頼まれました、|件《くだん》の剣の制作が完了しました。
時間があるときに、当店に起こしください。』