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ボカロ・歌二次創作小説
※注意※
この小説はYOASOBIさんの『舞台に立って』の二次創作小説となります。主はもととなった小説を読んでいませんので、ご了承ください。
「将来は陸上選手になる」
そう無邪気に書いた、6年生のときの作文。
陸上選手になっている未来のわたしを想像して書いたんだろう。
審判の声が聞こえた。
20XX年、XXオリンピック。
あの時のわたしと、今のわたしが重なる。
絶対に勝つ。
いつのわたしも、そう信じている。
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アイドル、ケーキ屋さん、イラストレーター、小説家に先生。
そんな数ある中から、わたしが選んだ夢____陸上選手。
運命みたいに惹かれた夢。オリンピックを見て、かっこいいと思った。たったそれだけの理由だったのに、陸上選手にはわたしを惹きつける『なにか』があった。わたしはこれじゃなきゃだめだって。そんなふうに思えた。
親はそんなわたしを、習い事に通わせた。ひたすら走って、走って、走る習い事に。
「加藤こより 第4位」
好成績だったのに、どうしてもやるせない気持ちがこみあがってきた。勝ちたかった。
しんどくても、ひたすら、走り続けた。毎日、毎日。
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「加藤こより 第13位」
その成績を見た。ずっと下がってきている。
「勝ち負けがはっきりある世界なんだから、好きだけじゃ生き残れないの。遊びじゃないんだから、わかる?他のことに熱中したほうがいいんじゃない?」
先生の言葉。
___わかってるよ、そんなこと。
でも、好きだから諦めなかった。
好きだけじゃ生き残れないって、わかってるけど。
こうやって頑張ってきた毎日が、未来に繋がる。願いに繋がる。
そう信じている。
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「位置について__」
オリンピックに入るために、頑張ってきた。
日本代表を決める大会。
待ちに待った、舞台に立っている。そのことが自分でも信じられない。
心臓がバクバクしている。
イメージしてきた。何度も、何度も。勝つ自分を、ずっと。過去のどんな自分でも、超えてみせる。
空を見上げる。怪我したり、体調をくずしたこともあった。でも、そんな日々もつながっている。そんな気がする。
夢に来ていた景色の目の前に立っている。
その幸せを噛み締め、わたしはスタートラインを切った。
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「なんでですか!?」
明らかにフライングした|美優《みゆ》が、上位になっていた。わたしの習い事での成績は、10位ほどだ。でも美優は、若干フライングしていた。
最初こそ見間違いレベルだったが、だんだんとエスカレートしてきた。その度に一桁順位を獲得し、わたしを罵ってきた。そんな不条理に、わたしは立ち尽くした。
「ずっと通わせてきたのに、なんで新人の美優より下なんだ」
そう言われてきた。他人にわかるわけないのに、こんな気持ち。
なんか、もうなんで走ってるんだろ。
「ほらこより、頑張って。美優は確かにフライングしてたけどさ、んなのいつかバレるって」
足が不自由になった、わたしの友達の|綾《あや》。マネージャーとして、わたしを助けてきてくれた。
隣にいた綾がいたからこそ、わたしは頑張れてきた。
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ずっと憧れてきた舞台が、目の前にある。
「頑張って、こより!」
そう綾が声をかけてくれた。
何度も何度も、一緒に泣いた。
でもその分、一緒に立ち上がってきた。
大きく深呼吸をする。
ゆっくり瞼を開ける。
足を踏み出す。
会いに行く。
思い描いた、未来のわたしに。
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待ちに待った舞台にたった。空気はひんやりしてて気持ちよく、といって晴天だ。
何度も何度も、思い描いてきた。
どんな自分も超えていける、未来の自分を。
また大きく息を吸って、吐く。
静かに青空を見る。澄み渡った晴天で、気持ちいい。
美優に邪魔されたあの瞬間。
綾と一緒に泣いたあの瞬間。
どの瞬間も、全然無駄じゃなかった。貴重な経験だ。
夢に見ていた景色に、今わたしは立っている。
綾のためにも、
みんなのためにも、
頑張ろう。
わたしのためにも、
精一杯。
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「将来は陸上選手になる」
そう無邪気に思い描いた、過去のわたし。
未来の、笑顔でいるわたし。
今の、笑顔でいるわたし。
そこにいる。
ここにいる。
今、確かに捉えた。