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第五話
【前回のあらすじ】
大蛇を一度気絶させることに成功した一同。
治療をしていると、大蛇の体から不思議な矢が刺さっていることに気づいた。
それは、自分の感情を過度に昂らせて暴走させるという術がかかった矢だった…!!
大蛇が暴走したのも、その矢のせいらしい……
矢を処分したのち、一同は大蛇の治療を終え、家に帰った。
しかしそこで、怪我していることもあってか、沙雪の体力が底をつきてしまった。
そして沙雪はそのまま気絶するように眠ってしまったのだった……
__……チリン……__
沙雪「……………んぅ……」
あれ…私寝ちゃってた……?
確か…みんなと自己紹介しあって…急に疲れが来て……そのまま……?
沙雪「……ここ…は……?」
私は部屋を見渡した。
朝起きた場所とはまた違う部屋だった。
しかし、相変わらず畳の良い香りが漂っている。
どこかから風鈴の音がする。
水が優しく流れる音が聞こえる。おそらく近くに川があるのだろう。
行燈は消えていて、どこか寂しい。
襖から微かに漏れ出る弱々しい光を見るに、今はもう夜なのだろう。
私は状態を確認しようと、ゆっくりと上半身を起こす。
沙雪「あれ…?服が変わってる……?」
私の洋服が、綺麗な浴衣に変わっていたのだ。
水色を基準として、まだらに小さな白の花模様が入った美しい浴衣だった。
しかし、問題はそこじゃない。
沙雪(誰かが私の服を脱がせた……!?)
顔が一気に熱くなるのを感じる。
恥ずかしさと焦りだろう。
沙雪「………っ!////」
__〜〜〜〜♪__
私が一人で黙り込んでいると、どこかから何かが聞こえてきた。
私は目を瞑って、そっと耳を澄ます。
__ヒュ〜〜♪__
沙雪「………………!」
それは、本当に綺麗な笛の音だった。
自然の音と調和して、まるで笛の音色が自然の一部になったのようだった。
私は思わず、まだ痛む腕で体を支え、よろよろと立ち上がった。
沙雪「もっと…近くで聞きたい……」
そう思って、私は足を引き摺りながらゆっくりと襖に近づいた。
---
外には森が広がっていた。
木では、生き物たちが思い思いの場所で静かに眠っていた。
川の音は聞こえるが、もう少し離れているようだ。
笛の音は、真上から聞こえた。
私はゆっくりとお屋敷の屋根を見上げる。
ひゅ〜〜♪
笛の音色の主に私は目を向けた。
そこには、意外な人がいた。
沙雪「りゅ…竜翔…くん…!?」
竜翔「……ん?…ってえぇ!?さ、沙雪ちゃん…!?」
---
竜翔「………っしょっと!」
沙雪「引っ張ってくれてありがとう…」
竜翔「ううん、大丈夫だよ。」
沙雪「……なんでこんな時間に笛を吹いてるの?」
竜翔「これはね、森とか灯和たちを守るおまじないなんだよ!」
沙雪「え!?その笛すごいんだね…!」
竜翔「そうなの!ボクの力なんだぁ!」
沙雪「竜翔くんすごいね!」
竜翔「えへへ…///」
沙雪「………ここはすごくいいところだね…」
竜翔「うん……すごく綺麗だよね………」
私はゆっくり辺りを見る。
周りは青々とした木々で囲まれていた。
草木が擦れる音が心地いい。
屋根の上からだと、川も見ることができた。
ゆったりと流れていく川に、月の光が反射してキラキラと輝いている。
虫も鳥もとても幸せそうだった。
沙雪(…………………………)
私は、どうしても聞きたかったことを尋ねることにした。
沙雪「……………ねぇ。」
竜翔「んー?」
沙雪「………なんであなたたちは私を助けてくれたの?」
竜翔「…………………あぁ………」
私の方に体を向けて、静かに微笑んだ。
しかし、その笑みには、今までとは少し違う緊張した空気が混じっていた。
竜翔「…………ここはね、居場所を無くした生き物が集まる場所なんだ。」
「ボクも。火影も。天舞も。灯和も。他のみんなも。居場所がなかったの。」
沙雪「………!」
竜翔「……あんな雪山で倒れてるくらいなんだ。君も逃げてきたんでしょ?」
沙雪「!」
図星をつかれ、思わず肩が跳ねる。
竜翔「………多分灯和は、見捨てられなかったんだろうね。」
沙雪「…え?」
竜翔「……灯和はね、昔、人間さんに殺されかけた事があるんだ。」
沙雪「!!?」
竜翔「うん。住んでた山に強い呪いがかけられて、死にかけたんだって。」
沙雪「…!!」
私は朝の灯和の怯えようを思い出す。
人見知りにしては異常なほどの怯えよう。
あれは…過去に人間に殺されかけたトラウマがあるからなんだ…
沙雪「…………それなのに…私をここに匿ってくれたの……?」
竜翔「……灯和はそういう人なんだよ。困ってる人を見捨てられない性格。」
「たとえそれが…自分にとって脅威になるかもしれない存在でも。」
沙雪「………………」
__ポロ…__
沙雪「……………っっ!!(ポロポロ)」
竜翔「ぅえ!?な…泣かないでよぉ……」
__沙雪「……ごめんなさい……ごめんなさいっ………」__
竜翔「…………!?あ、謝らないで……大丈夫だから…ね?」
__さすさす…__
沙雪「……………っ!」
私は、生まれて一度も、優しくされたことなんてなかった。
《《こんな私》》だから、仕方がないものだとばかり思っていた。
でも、私は今こうして、暖かな優しさを確かに感じていた。
---
沙雪「………グスッ…グスッ…」
竜翔「……落ち着いた…?」
沙雪「…うん…ありがと…」
竜翔「………ううん。大丈夫だよ。」
沙雪「……灯和たちに『泣いてた』って言わないでね…?」
竜翔「言わないよ。」
「………じゃあここでの話は、二人の秘密…ね?」
沙雪「…うん…!」
---
__チュンチュン__
外では小鳥たちが朝の挨拶をしている。
草木も太陽の光を取り込んで、とても生き生きとしている。
みんな幸せそうだ。
……私の目の前の人たち以外は。
天舞「……すまない…」
天舞が地面に埋まるほど頭を床につけて土下座している。
いや、詳しく言えば、火影さんに頭を押さえつけられている…?
灯和と竜翔は隅で火影さんのお怒りモードに震えてる。
火影「……私が神通力でお前に服を着せていた時に天舞が部屋に入ってきてな…」
沙雪「あっいやっ別に気にしてないので大丈夫ですっ!!」
火影「…本当だな。」
パッ(頭から手を離す)
天舞「……ごめんな…」
沙雪「大丈夫だよ…?」
灯和「……あ!着物といえば…」
話を逸らすように灯和はそういうと、棚から綺麗な着物を取り出した。
灯和「これ、沙雪ちゃんが寝てる間に友達に貰ったんだけど…」
火影「……その柄は《《あいつ》》か。」
灯和「一回着てみてくれる…?気にいるといいんだけど…」
沙雪「う…うんっ!」
---
沙雪「わあぁ…!」
綺麗な着物を着て、思わず感嘆の声が漏れる。
白を基準にして、下へ続くにつれて小さな水色の花が増えていく柄だった。
しかし、普通の着物とはどこか違う、淡麗な美しさを感じた。
沙雪「……すっごく可愛い…!ありがとう!」
灯和「…………そんなに言われると照れるよ…/////」
竜翔「あの人性格に見合わずこういうの得意だよね〜。」
天舞「それなー。」
__キュルルルル……__
竜翔「ん?」
灯和「………?」
沙雪「………………っ!!//////」
天舞「……あー、そーいや朝飯まだだったな。」
灯和「そっか!じゃあ作ってくるね!」
火影「私も手伝おう。」
沙雪「あ…!私も手伝う…!」
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朝ごはんは、白米、山菜、漬物、お味噌汁、焼き魚だ。
天舞「なんか火影のやつの方が多くね?」
火影「気のせいだ(イラッ)」
天舞「確かめねーとわかんねーだろ!一回見せろ!!」
火影「来るなっ!!」
**ドタバタッッ**
竜翔「んもー!ご飯の時に騒がないでってばー!!」
灯和「……ごめんねぇ…いっつもこうなんだ…(ヒソヒソ)」
沙雪「全然大丈夫!」
--- …なんでだろう… ---
--- この人たちとの面識なんてないはずなのに ---
--- 私は愛されないものだと思ってたのに ---
--- …すごく幸せだなぁ… ---
灯和「じゃあ、命に感謝して…」
一同「いただきます!」
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第五話 〜完〜
こんにちは、『読書が好き🍵』です。
私、一つイベントを思いつきました。その名も『キャラ質』です!
今作に出てきているキャラクターたちへの疑問や質問を送ってください。
私がそれを答えさせていきます。じゃんじゃん送ってくださいね!
では、またどこかで会いましょう。