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21.シュバルツ帝国観光
「なぜだ?」
「個人的にしたくない、というのもありますし、もとよりこちらに滞在する予定は1週間となっており、予定もありますので、そんなに時間がかかりそうなものを入れることは出来ません」
「そこをどうにかできないか?」
「無理ですね。というより、どうして礼儀作法がなっていない方が婚約者となっているのですか?」
「実は、恋愛婚なのだ」
「あ、そうですか」
今のだけでかなりのことが分かってしまった。
「いや、お前、勘違いしているだろう?」
「私が、ですか?」
どうせ身分もろくにない女に騙されて断罪騒動でもやったんじゃないの?
ま、ここを言ってしまえば不敬罪になるので言わない。
「私の婚約者……ミランダは公爵家の一人娘だ。私は彼女に一目ぼれしてしまったんだが……彼女は自由に動くことができんのだ」
はぁ……
この国、病気が多くない?
「どうやら呪いにかかったようで、動けんのだ。だから、それの解除と、体力回復の手伝いをしてもらいたい」
あ、呪いだったか。
ちょっと想定外。
「解除は……」
正直に言うと、やってみたい。今までそういうことなかったから。
だけど……
「その後のがなけれ問題ありません。できるかは分かりませんが」
「そうか……まあ仕方ないな。そうするか」
「それで、私には何かあるのでしょうか?」
まさか、王太子とも言うものが見返りなしにこんな要求なんてする訳がないよね。
「何がお望みで?」
「何を望んでいると思いますか?」
こちらが答えを教えるなんて甘い目には合わせてやらん。
ちゃんと考えてもらう。
「大神殿でのコネなんてどうだ?」
どうやら私の目的はちゃんと理解しているようだ。
「それも悪くはないけど……サムエル、それってOKなの?」
「その者の立場によりますね」
「ならまあいいでしょう。けれど足りないと思いますよ?」
「そうだな……古い文献なんてどうだ? 聖女に関するやつだ」
「なるほど……それだったらいいでしょう。量はその時に決める、でいいですか?」
「構わん」
「なら交渉成立ですね。エリーゼ明日からの予定であいているのは?」
「基本的には午前中が空いています」
「分かりました。では2日後の午前中に、まず国王陛下のもとに向かいたいと思うのですが。構いませんか?」
「それでいい」
そして、厄介だった王太子は帰っていった。
「はぁ……」
「おつかれさまです、ミア様」
「大変ね」
「そうですね。しかし、時間もありましたし……仕方ないと言えば仕方ありません」
エリーゼが辛辣だ。
「はぁ……対価、あれで良かったのかな……?」
「私には分かりませんが、これからを考えると悪くはないと思いますよ? 最悪の場合、国家機密が書かれているようなものを貰えばいいんですから」
「そうだよね……」
エリーゼはあまり敵に回したくないや。
「そういえば、明日の午後は何がある?」
「取り合えず孤児院に行く予定です」
「分かった。明日の朝、時間あったら観光行ってもいい?」
「ベノン様たちを連れて行くなら問題ありません」
「ありがとう」
そして、私は、夜もまだ遅くない頃に、眠りについた。
明日には、疲れを落とし、ゆっくり観光するために。
◇◆◇
「行こう!」
「分かりました」
ベノン苦笑しながらもちゃんと来てくれる。
「取り敢えず市場に行ってくれる?」
多分、優秀なベノンだったらちゃんと把握してくれている。
「かしこまりました」
そうして、ベノンたちに着いていったんだけど……
「この道は一体どうなっているの!?」
「異国のものが入りこまないようにするためと、追ってから逃げるためです」
「追手から逃げる? それが本当に目的にあるの?」
「はい」
じゃあ……
王族とかはここらへんで護衛やストーカーを撒いたり……はしないか。そういうことをする人だったら把握しているだろうしね。
それが何かのフラグにでもなったのか……
◇◆◇
「はあ、はあ」
帝都を一人、走る者たちがいた。
「待てー!」
そして、後ろには数十人の人。どうやら、その|少《・》|女《・》追いかけているようだ。
「お嬢様、ここは我々が止めますので!」
「無理よ! 一人じゃあ逃げ切れないわ! それに優秀なあなたがここで死んじゃったらどうするのよ!
せっかく剣聖学園への入学が決まったというのに!」
「しかし……お嬢様が狙われるよりは……」
「ともかく、行くわよ!」
「はぁ……分かりました」
そして、また二人は走り出す。
「右へ!」
「真ん中へ!」
「右を2回!」
護衛の的確な指示は続く。どんどん差は広がっているようでも、やはりこの道には限界があるようで。
「きゃあ!」
「うわぁ!」
「お嬢様!?」
「ミア様?」
◇◆◇
誰かがぶつかってきた。
紫色の髪の色の、10歳くらいの少女。
そして、隣には、12歳くらいの緑に髪の少年がいた。
「あ、すいません」
「お嬢様、行きますよ!」
「え……分かったわ! ……!?」
ベノンの手には、いつの間にかその少女がいた。
……修道服に包まれて。
しかし、今の私達は私服。
これ、意味あるのかなぁ? 逆に目立ちそう。
「あっ……。手口は強引だけど……助かったわ、ありがとう」
そんなことを気にせず、少年は走る。
「わたくしも頑張らなくては」
少女が、そう呟いたのが。印象的だった。
そして、人がぶつかってきた。
「おい、何だよこいつら」
「一人、修道女の女がいるし、こいつが最近来たという聖女だったり? ギャハハハ!」
男どもは、勝手に都合のいい想像をしてくれた。
なるほど、だから彼らの真ん中に彼女をおいて、私もそこに行かされたのか。
彼らの思考を誘導するために。
「おーい、聖女だったら儲けもんだが、今は追うことに集中しろ!」
「「「「「うっす!!」」」」」
結局観光していませんが……