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1話「洗礼」
コンビニにいた。
無機質なコンクリートの音が外へと鳴り響く。
夜だと言うのにまだ賑わっている東京。
「…とりあえず一旦これでいいか」
彼はコーラ、お菓子、おにぎりを手に取る。
自分のマイバックに入れ、レジへ向かう。
財布から金属と紙を取り出す。
「…すべてで600円になります」
財布から出した金属をしまう。
そして紙だけを渡して、お釣りの金属を受け取る。
少し計算を間違えたかと言わんばかりの顔をし、そのままコンビニを後にする。
「ありがとうございましたー」
店員さんの声が響く。
やはり外は暗いが賑わっている。
彼にとっては少しうるさい位だ。
イヤホンの音量を一つ上げ、アスファルトの道を歩き出す。
町工場の油と鉄の匂いから解放される、束の間の夜。
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「……が、あ……っ!?」
次にハガネが吸い込んだのは、排気ガスではなく、濃厚な血と泥の臭いだった。
視界が激しく揺れる。見知らぬ豪華な大広間。
白いローブを着た老人たちが狂喜乱舞し、輝く鎧を着た騎士たちが彼を囲んで跪いていた。
「おお……召喚は成功だ! 神子様、我が国をお救いください!」
頭が追いつかない。だが、目の前に浮かび上がった半透明の盤面——
【ステータス:鉄屑の錬成】
という文字を見た瞬間、ハガネの心臓は跳ね上がった。
これって……まさか、ネットで見た異世界転生か!?
前世ではただのしがない町工場の溶接工。
うだつの上がらない人生だった。それが今、英雄として求められている。
ハガネは高揚感で胸を震わせ、騎士団長から手渡された、見たこともないほどピカピカに磨かれた美しい鉄剣を握りしめた。
「よし……やってやる。俺の第二の人生だ!」
だが、その高揚感は、わずか数時間後に木っ端微塵に打ち砕かれることになる。
「防壁が破られたぞッ!! 敵襲——、ぎゃあああッ!?」
連れてこられた最前線の砦。ハガネの耳をツンと刺したのは、現代の東京の喧騒など生ぬるい、人間の生々しい「絶叫」だった。爆煙と共に、砦の門が内側へ吹き飛ぶ。
土煙の向こうから現れたのは、身の丈ふたつはある異国の狂戦士だった。血塗られた巨大な鉄槌を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべている。
「ひ……」
ハガネの足が、ガチガタと震えた。格闘経験などない。剣
の振り方すら知らない。ただの24歳の一般人だ。
「死ねッ! 軟弱者がッ!」
大男が猛然と突進し、鉄槌を振り下ろす。ハガネは悲鳴を上げながら、無我夢中で手元のピカピカの剣を突き出した。
——ガキィィィィンッ!!!
鼓膜を引き裂くような金属音が響く。無双など、できるはずがなかった。
「あ、が……っあああああ!!!」
大男の圧倒的な怪力により、ハガネの持っていた美しい剣は、根元からガラスのように粉々に粉砕された。衝撃が腕に伝わり、ボキリ、と嫌な音がして激痛が走る。
ハガネは自分の腕の骨が折れたことを察した。頭を叩き割られる。死ぬ。確実に、今ここで殺される。
「嫌だ……嫌だ、死にたくない、助けてくれ!!」
ヒーローのプライドなんて、一瞬で消し飛んだ。
ハガネは涙と鼻水を撒き散らしながら、その場に無様に腰を抜かした。迫り来る鉄槌から逃れるため、プライドも何もかも投げ捨て、死体の血と油でぬかるんだ泥まみれの地面を、犬のように四つん這いになって這い回った。
「う、うあぁぁぁ……っ!」
恐怖のあまり失禁し、股間が冷たくなっていくのを感じる。
ハガネは近くにあった騎士の死体の下に、文字通り泥まみれになりながら潜り込んだ。
死体の肉の重みと、じっとりとした血の温かさを背中に感じながら、目を血走らせ、泥水を口に含んだままガタガタと震え続けた。ただの凡人が、強者の「鉄」に踏みにじられ、「泥」へと落とされた瞬間だった。戦闘が終わったのは、それからどれくらい後だっただろうか。
死体の山からのしかかっていた肉が退けられ、ハガネは泥の中から手荒く引きずり出された。彼を見下ろしていたのは、あのきらびやかな騎士団長だった。
だがその目は、ゴミを見るかのように冷ややかだった。
「チート持ちの英雄かと思えば、ただの腰抜けの無能か。期待して損をしたな」
ハガネの身ぐるみが剥がされていく。代わりに投げつけられたのは、今にも折れそうな錆びたナイフ一本と、木製の古びた荷車だった。
「今日からお前の役職は『鍛冶奴隷』だ。戦場に転がる鉄屑でも拾ってろ、生ゴミめ」
激痛が走る腕を抱え、泥水の中に転がされたハガネは、遠ざかっていく騎士たちの背中を、ただ泥の中から見つめ返すことしかできなかった。
「絶対…見返してやる——」
彼が、覚悟を決めるのはそう遠くない話だった。
ここから始まる、復讐劇。
成功するかどうかは別として——
彼は今、覚悟を新たにしたのだった。