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四季折々・推理小説部《番外編》
「トリック・オア・トリート!! お菓子くださいっ、せんっぱいっ!」
部室に入ってくるなりそう叫んだのは、2年生の|雪峰《ゆきみね》|冬希《とうき》。
部員からはおバカでポンコツということで評判だが、クラスメイトや先生からは誰にでも優しいと評判の男子生徒。所謂陽キャだ。
「久しぶりの再会だっていうのに、一言目がそれ? 先輩への敬意も、部長への敬意も足りないわよ」
餌を求める仔犬の目で見つめてくる冬希に、ジト目を向けるのは3年生の|暁月《あきづき》|秋音《あきね》。
頭脳明晰で周囲からの人望も厚い。ここ『推理小説部』、通称『推理部』の部長だ。
「ていうか冬希くん、なんで最近部活来てなかったのよ?」
「冬希は居残りが溜まってたから……昨日、やっと終わったみたい」
秋音の疑問に代わりに答えたのは、2年生の|塔堂《とうどう》|夏葉《なつは》。
いつもライトノベル(ブックカバー付き)を読んでいる、無口で小柄な女子生徒。冬希とは幼馴染である。
「ちょ、ちょっと夏葉! なんで言うんだよもう……!」
「あ。……ごめん、黙っておく約束だったね」
まあ口約束なんて軽いものだし、と身も蓋もない夏葉。
「相変わらず仲良いっすねー、先輩方……」
と、呟いたのは、1年生の|瞬木《またたき》|春汰《しゅんた》。
毒舌で先輩(主に冬希)をナメている節はあるが、なんだかんだ性格がいいのでモテる。
迫力のない睨みを利かせる冬希を見て、この後彼が拗ねて面倒になる予感がした。
なんとか秋音と2人で彼のフォローを試みる。
「ごめんってば……冬希。ね、今度、何か奢るから。ね……?」
「それに、ちゃんと居残りはサボらなかったんでしょう? 偉いわよ! そこもサボっちゃったら人間として終わっちゃうものね! 流石だわ〜!」
「夏葉……、先輩……!」
冬希の目にハイライトが戻ってきた。秋音と夏葉は胸を撫で下ろす。
「でも先輩、内緒にしたかったってことはやっぱ、部長にバレたくなかったんすよね? 推理部の部員なのに
馬鹿って思われるのが嫌だったんすか? 可愛いとこあるんすねー」
「うわぁあああっ!!」
が、ここでなんとも意地の悪い春汰の冷やかしが入った。うっすら嘲笑している。
「夏葉ぁ、春汰がいじめてくるんだけど、ねえなんとかしてー!!」
「無理」
「ぐはぁっ、うっ……うっうっ」
「はいはい冬希くん、嘘泣きなのバレバレよ? 夏葉もちょっと冷たすぎるんじゃない? 春汰くんも、冬希くん並に先輩への敬意が足りないわよ?」
こういうとき、場をまとめるのは部長である秋音の役目だった。
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「あの、先輩、忘れてませんか?」
と、冬希。
「ん? なあに?」
「それ絶対分かってるヤツっすよね……?」
惚ける秋音に、すかさずツッコむ。
「お菓子っすよ! お菓子! トリック・オア・トリートっす!」
「ああ! そうそう、それね?」
まるで今思い出したかのような口ぶりで、秋音は楽しげに続けた。
「そうね、じゃあ……このクイズが解けたら、お菓子をあげる! 3人とも参加してちょうだい」
「えー、クイズっすか? 普通にくださいよー」
冬希はブーイングを飛ばしてはいるものの、ワクワクしているのが伝わってくる。
それは夏葉と春汰も同じだった。良くも悪くも団結力が高いのだ。
「デデン! 豆知識クーイズ。ハロウィンカラーのオレンジ、黒、紫には、それぞれに意味があり表しているものがあります。オレンジは”豊富な収穫”、紫は”夜空や月光の光”。では、黒はどういったものを表しているでしょうか?」
人差し指を立て、秋音は楽しそうに出題。
「「「黒悪長い猫魔夜」」」
「ちょっと、一斉に答えないでよ!」
「黒猫!」
「悪魔……」
「長い夜」
冬希、夏葉、春汰が順に答える。
「おっ、正解が出たわね。__正解したのは、春汰くんよ!」
「え、あ、俺っすか? やったあ……」
ピポピポピンポーンという秋音のふざけた効果音に、一応喜んでみせる春汰。
夏葉と冬希が睨んできているが、気のせいだと思おう。
「はいこれ。賞品のお菓子でーす」
「いや多いっすね?!」
いつの間にか机に置かれていた、お菓子の山に春汰は驚愕する。
心なしか夏葉、冬希の睨みが強くなった気が……。
「……先輩方、このお菓子、みんなで分けません?」
「「賛成!」」
ここは私立|柏駒《かしこま》高等学校。3階の角、『推理小説部』の部室。
今日も至って騒がしい。
書きたいようにひたすらに書いてたら長くなっちゃいました……。
番外編。ハロウィーン編です!
最近更新が止まっていた「しきぶ」こと「四季折々・推理小説部」ですが、ちょっとずつ書き進めていくので、温かい目で見守ってください。
クイズの参考↓
https://ichigo-drill.jp/halloween-quiz-85
改めましてみなさん、ハッピーハロウィーン。