公開中
懐かしい仲間
俺は今、この身以外に持っているものと言えば、薄いぼろきれの服ぐらいだ。地図や食事など持ち合わせていない。
そして、その身体でさえまだ8歳だ。鍛えられてもいない、肉もない、持久力なんてもっての外。
それでも死ぬ気で夜まで足を止めなかった。
もう体力も残っていない。
まるで、あの時――城の中で倒れる寸前のように、脚も動かず、眩暈がした。
……もう空腹も感じない。
俺はなんて無鉄砲で、単純なんだ。
また、倒れこんでしまった。
顔に土がついたのも、もうどうでもいい。
あぁ、意識が遠く……。
「大丈夫か⁉」
突然、聞き覚えのある声がした。
揺り起こされた。
その顔には見覚えがあった。
「……ライアン?」
確かにその顔は、前世の1番弟子だったライアンだった。あの父親にも勝る体格の持ち主で、やはり腕っぷしでは敵わない奴だ。
「なぜ私の名を……」
そう言いかけたらしいが、衰弱していく少女の弱った顔を見て、
「今、何か食わせてやるからな。耐えてくれ……」
大分軽いであろう俺の身体を抱き上げた。
彼の山小屋は質素だが温かく、出てきたキノコのシチューはとても美味しかった。疲労困憊した身体中に染み渡った。
「……すまない」
あちらからしたら初対面の娘だ。無理に女らしくする必要はない。俺らしくしておけばいいのだ。
「なんでこんな山奥に?」
「あぁ、それなんだが……」
言った方がいい。
「ライアン。俺はお前の師、シャドー=エメラルドの生まれ変わりだ」
「……へ」
「信じられないよな。実は俺もだ。記憶が戻ったのがつい今朝なわけでな、それで今朝家を飛び出してきたんだ」
冗談めかしく笑ってみせた。
さて、俺の話を、ライアンは信じるだろうか。拾った小娘が突然、師の生まれ変わりを名乗ったら。俺もライアンも、世界に名の知れた勇者の一員だ。そこらで仕入れた情報をもとに吹いたホラと読むか、これまた師が師ならば弟子も弟子か。
「……やはり、貴方は昔から無鉄砲だ」
ライアンは笑った。
8年前と変わらない。
あの時も、俺はその笑顔に託して、魔獣にただ1人立ち向かったのだ。
「こんな大きな魔獣……見たことも……」
「無理です!逃げましょう‼」
その時俺に提案したのもライアンだった。俺は強く言い返した。
「……俺は逃げない。絶対勝って、すぐお前らに追いついてやるから。先に行け」
「で……ですが」
「いいから行け‼」
「はっ……はい‼」
「……ライアン。奴らを頼んだ」
「……はい!」
10人ほどの兵をライアンに託して、俺は1人、その大きな魔獣を前にして、自分を鼓舞した。
大丈夫だ。お前はできるだろう、シャドー。お前の目標に比べたら、どれだけちっぽけな敵だ。こんなの、簡単に倒して、姫を助けるんだ。そうだろ?
呼吸を整え、ルビーの装飾の付いた両手剣をまっすぐ構えた。
……攻撃をかわすのはたやすかった。だが。
「あと1発……とどめだ……!」
大きく振りかぶった。
今思えば、その態勢は大きな隙だった。
魔獣の鋭い爪が、俺の腹を裂いた。奴は、隙を狙うのが得意な、そこそこ賢い魔獣だったのだ。
相討ちだった。
魔獣は倒せた。
出血が酷い。一生懸命、剣を引きずってでも歩き続けた。
目標は、敢え無く、そこで途絶えた。
俺の最期は、まず、頭が働かなくなってから、腕に力が入らなくなって剣を落として、座り込んで、意識が飛んで、それでおしまい。呆気なかった。
俺は、……生まれ変わってでもそれを叶えることを望んだ。
きっと。
この転生にも、何か意味があるのかもしれないな。
なぜか分かりませんが小説で飢えてる子に食わせる物は基本シチューとかグラタン(これはなかなか融通がきかない)になります。今日の給食も飢えた私にシチュー。