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魔法少女 月下のセレナーデ10狂月のラプソディ(side朔夜)
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俺は、生まれたときから「選ばれた側」だった。
物心つく前から組織にいた。親の顔は知らない。
感情より任務を優先するように育てられた。
誰かを守りたいと思うな。
誰かを愛するな。
執着は隙を生む。
俺は従順だったから期待に応えることだけが存在価値だったから。
スターシャワー大災害も俺の任務の一つだった。直接手を下したわけじゃない。
だが、計画の中心にいた。
誰が消えても誰が泣いても別にどうでもいいしなんとも思ってない。
転校してきたのは、魔法少女の調査のためだった。
優等生で、穏やかでかっこいい転校生。
ああいう「いかにも輝いているキャラ」を演じるのは簡単だ。
街角で天璃と出会った。
最初ただの監視対象。
なのに。
「朔夜ってさ、意外と笑うとかわいいよね」
無防備に笑って、そんなことを言う。
俺を疑いもせず、俺の言葉を信じ他愛もないことで腹を抱えて笑った。
――なんなんだよ。
任務中に感情が混ざるなんて、愚かだ。
なのに、天璃といる時間だけは「ただの高校生」になれた。
恋をしていた。
任務も、組織も、過去も、全部遠くなる。
あいつの隣にいると、自分が普通の人間みたいだった。
気づけば目で追っていた。
あの時言った「好きな人」は冗談じゃなくて自覚していた好きになってしまった、と。
文化祭が終わった校舎。
静まり返った教室で、天璃が震える声で話し始めたとき。
ああ、ついに来たかと思った。
バレた。
覚悟していたはずなのに、
胸が痛かった。
「もしかして、それって朔夜…」
「…」
違うって言え。そう叫んでいる目だった。
その顔を見た瞬間、一瞬だけ迷ってしまった。嘘をつけば、もう少し隣にいられる…
でもそれは…
「あーあ、結構俺、お前のこと気に入ってたんだけどな」
わざと軽く言った。
「え…じゃあ、わたしと仲良くしたのも仕事のためなの?なんで?なんで…大切な人を失わせたの……」
まずい。天璃が壊れてしまう。
「いやぁ…まあ、スターシャワーのことは選抜に選ばれなかったってだけだ。俺がやったわけじゃねーのになんでキレらんなきゃならないんだよ」
嫌われたほうがいい。憎まれた方がいい。恨まれたほうがいい。
そしたら後腐れなくあいつは戦える。
でもあいつはほっとしたかのように希望を見つけたかのように、
…まだ俺を信じていたいかのように…
「実質的にやったわけじゃないってだけ。ボスに命じられてフツーにプロジェクトはやってたし、俺あの優しい転校生キャラも反吐が出る思いでやってた。」
本当は違う。
天璃といる時間は全部本物。でも言わなかった。
俺が楽しかったなんて知ったらあいつはもっと苦しむ。
「好きだ!!」
その叫びを聞いた瞬間、心臓が止まった。
なんで今言う。
なんでそんな顔で言う。
敵だと知っても好き??
馬鹿か。
俺は、お前の仲間を奪った側だぞ…
ああ、もう駄目だと思った。ずっと押し殺してきた感情が崩れた。
「俺も……」
口が勝手に動いていて長く関わりすぎたと思った。
天璃といると、自分は何も罪をおかしていないただの高校生だと錯覚した。
こうなる未来しかないとわかっていたのにそれでも一緒にいたかった。
幸せを望む資格なんてない。
俺はいくつもの未来を奪った。
そんな俺が、
笑って生きていいわけがない…
「一緒に逃げよう」
その言葉は、甘かった。
一瞬、本気で想像した。魔法少女も、組織も、全部捨ててどこか遠くで2人だけで暮らす未来。
でも、天璃は逃げたら壊れる。
あいつは誰よりも仲間を想っていて、その信念を折らせるのは俺じゃない。
だから抱きしめた。
それしか天璃を支える方法が見当たらなかった。
最後に、ただの天璃のことが好きで天璃に好かれている高校生の朔夜として。
「ごめんね」
俺が俺たちが、もっと大きな星の下で生まれていたら、俺たちは敵じゃなかったかもしれない。
月が白銀に光る。
綺麗だな、と思った。
「次会う時は敵だね」
それでいい、天璃が前を向けるなら。
俺は敵でいい。
天璃の目は覚悟の光を灯していた。
「「また月の下で」」
願いでもあり、呪いでもある言葉。
次に会うときはきっと剣を向ける。殺す覚悟、死ぬ覚悟で。
俺たちは互いの信念のために道を違えてもう交わることはないだろう。
それでも、俺はきっと最後まで天璃のことを好きなままだ。
月が照らす校舎を背に、
俺は闇へと消えた。
今度会うときは、敵の組織の幹部として。
ただの朔夜は、
あの教室に置いてきた。
なんか我ながら切ないものが書けたと自負しております。2人の違う目線から書くと深みが出ますね〜