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第八話:宣戦布告
天帝からの「討て」という明確な勅命は、グライアにとって最終宣告だった。彼女はもはや迷わない。感情は冥府の霧の中に閉じ込め、柱神としての冷徹な仮面を被った。
北の神殿から出立するグライアの姿は、まさに死を司る神そのものだった。黒いロングコートが風になびき、そのジト目の奥には、いかなる情も宿っていないように見えた。
「グライア様……」
シルフィアが不安そうにその背中を見つめる。ゼフィールは静かに隣に立ち、
「これが最も合理的で単純な解決策だ。我々が提示した『新たな理』の可能性は、まだ天帝には認められていない」
と冷静に告げた。
「でも、自分は諦めない!」
シルフィアはゼフィールの言葉にもひるまず、風の精霊としての小さな体躯に秘めた強い意志を見せた。
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一方、ゲネシスの神殿。ゲネシスは自らの行いの重大さに直面し、贖罪の方法を模索していた。しかし、彼にとって「命を救う」という理想を捨てることは、自らの存在意義を否定することに等しかった。
「俺は間違っていない……命は、輝くべきだ」
彼の理想主義は、世界の破滅よりも、目の前の命を救うことを優先させた。その純粋さが、彼を頑ななまでに一つの方向へと突き動かしていた。
その時、神殿全体が凍り付くような冷たい圧力に包まれた。グライアの「無言の圧力」だ。その圧力は、かつてゲネシスが神殿に無断侵入しようとした時の比ではない。明確な「敵意」と「殺意」に満ちていた。
「グライア……!」
ゲネシスは慌てて神殿の外へと飛び出した。そこには、すでに臨戦態勢のグライアの姿があった。
「創造神ゲネシス。天帝の勅命により、貴様の禁忌を討つ」
グライアの声は感情を完全に排しており、ゲネシスは身震いした。これは、愛しい恋人としての声ではない。絶対的な秩序を司る、冥府之神としての宣戦布告だった。
「待ってくれ、グライア!俺は……!」
ゲネシスが弁明しようとした瞬間、グライアは間合いを詰め、その拳をゲネシスの顔面に叩き込んだ。
「ぐふっ!」
今度の攻撃は、いつもの「愛の鞭」とは比べ物にならない神力が込められていた。ゲネシスは吹き飛ばされ、創造の庭園の木々に叩きつけられる。木々は瞬く間に生命力を失い、枯れ果てた。
「これは罰だ。私情はない」
グライアは冷たく言い放ち、再びゲネシスへと向かっていく。ついに、柱神同士の避けられない対決の火蓋が切って落とされたのだった。
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