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『矛盾の不在証明』
今日のお題
『理』『矛盾』『怪異』
理と矛盾って全く正反対でムズすぎやせんか!?
――なぜ世界はこんなにも、綺麗にできているんだろう。
数学の授業で黒板に描かれた関数を眺めながら、ふとそんなことを思った。答えはひとつに収束する。どんな複雑な式も、正しい手順を踏めば必ず真理にたどり着く。
でも、それは「そう決まっている」からじゃないのか?
じゃあ、誰が決めたんだ?
その日から、僕は理(ことわり)というものに囚われ始めた。世界を成り立たせている法則。重力、時間、因果。それらはどうして破綻しないんだろう?
矛盾があれば、世界は壊れるはずだ。
じゃあ、もしその矛盾を見つけたら――?
僕は気づいてしまったんだ。
一週間前、校舎裏で見た「ありえない景色」に。
壁の向こうに、もうひとつの僕がいた。
向こうも、僕を見ていた。
そして笑ったんだ。「おまえは誰だ?」って。
その瞬間、景色は音もなく消えた。けれど、僕の中には確かな違和感だけが残った。
――世界には、僕が二人いた。
それからというもの、奇妙なことが増えた。
授業中にページをめくると、そこには僕が書いていない文字があったり、机の上に「君は存在してはいけない」と落書きされていたり。
最初は誰かの悪戯だと思った。でも、だれがそんな言葉を書く?
答えは一つしかなかった。
――世界そのものが、僕に伝えている。
「君は矛盾だ」って。
放課後、誰もいない教室で、僕はスマホを取り出し録音を始めた。何かを記録しておきたかった。
「僕は、存在してはいけない……らしい」
声に出しても、現実味がない。でも、頭のどこかで理解していた。
世界には“理”がある。矛盾を許さない法則だ。
そして僕は、その理に反してしまった。
二人目の僕を見たあの日から。
夜、自室でスマホを見返すと、そこには僕の声じゃない音が録音されていた。
『――君がいなくなれば、すべて元通りだ』
その声は、僕の声だった。でも、僕じゃない僕の声。
心臓が冷たくなる。
画面の向こうで、もうひとりの僕が笑っていた。
『選ばれるのはひとりでいい。二人は、いらない』
その瞬間、僕は理解した。
世界は完璧でなければならない。二つの同一存在は、世界にとって矛盾。
だから、どちらかが消える。
その“どちらか”は、観測した側――僕。
「理を守るために、僕が消えるんだな」
声に出すと、不思議と怖くなかった。
僕が消えれば、世界は完全になる。矛盾は消え、理が守られる。
それが、僕に与えられた最後の役割。
視界が暗くなる。音が遠ざかる。
でも、その奥で僕は見たんだ。
窓の外の空が、夕焼けに染まり、まるで微笑んでいるように。
僕は笑った。
「世界、ちゃんと綺麗だったよ」
――次の瞬間、僕は音もなく消えた。
そして、何事もなかったかのように、世界は続いていく。
怪異の要素がかなり薄いのはご愛嬌(ノ≧ڡ≦)
ただ見ていないだけで、この世界は全く思っているものと違うでは──?
と考えて書いてみました。