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魔術師の探求
休憩をしながら歩いていると鳥のさえずりが良く聞こえた。今日は花の季節らしくよく晴れている。ニジュレまでは意外と近く、太陽が天辺に昇る前についてしまった。しばらく滞在する予定なのでどうしようかとふと、掲示板に目がいく。どうやら近くで魔物が出るらしい。注意喚起の張り紙の隣にギルドの募集要項の張り紙があった。軽く流し読みしてその足で図書館へ向かった。
図書館で魔術書を探す。魔術書とは魔術の扱いにおいてのこれまでの歴史などの参考文献なのだ。書架にズラリと並ぶ多くの魔術書の背表紙は長きに渡る魔術史を物語っているような気さえしてくる。その中からよく知った著者の名前を探す。少し古びた分厚い本が2冊と比較的新し目の本。3冊の貸出し手続きをしようとしたらなぜか止められた。
「貸出しの手続きをしたいのですが」
「こちらの本は貸出し厳禁の本ですので貸し出すことができません。他の1部の魔術書の本でしたら貸し出すことが可能です」
「この本って借りられないのですか?」
「当館の規則上、基本魔術系統の本は貸し出せないことになっているんです」
申し訳なさそうに司書の女性は言った。以前訪れた時は借りられたはずなのだがいつの間にか借りられなくなっていた。
「そうなんですか。でしたら借りるのは諦めます」
こうなったら仕方ない。潔く諦める方が身のためだ。
「当館の中でしたら自由に読むことができますよ」
「いろいろとすみません。ありがとうございます」
図書館の奥にスペースがあってそこで読むことにした。椅子に腰掛け、本を広げる。
本の著者はブバルテ・リーゲラ。伝説の魔術師だ。アリフェがまだ小さい頃に1度だけ会ったことがある。見せてもらった魔法の美しさは今でも忘れることができない。自分が魔法使い、もとい魔術師を目指すきっかけになった人物だ。夢中で読んでいるうちに日が暮れかけていた。閉館時刻だというのでしぶしぶ本を棚に戻し宿を目指す。
宿には食事処も併設されており、町の人々や宿泊客でにぎわっていた。
「いらっしゃい。何にするか決めたかい?」
「白身ザカナのムニエルと季節のフルーツジュースを1つずつお願いします」
「あいよ! 適当に空いている席に座っとき!」
豪傑そうな女将の指差した先には窓側の2人席が空いていた。椅子に座ってさきほどまで読んでいた本の内容を反芻する。
「高等複合魔術」
かのブバルテも使いこなすのに苦戦した魔法、らしい。伝説の魔術師が使いこなすのに苦戦したのだったらひよっこのアリフェは当然使いこなすことが難しいだろう。うーんと悩んでいる目の前に料理がやってきた。
「お待ちどうさま。白身ザカナのムニエルと季節のフルーツジュースさ。ついてるパンとスープはサービスだよ」
テーブルの上に並べられた料理はどれも美味しそうに湯気が立ち上っていた。
「ありがとうございます」
久しぶりに自分で作る料理とは違う温かさを感じて思わず涙が零れた。
翌日、昨日と同じように図書館へ行こうとすると開いておらず休館日だった。なので隣にある商店で地図と方位磁針を買った。ついでに保存がききそうな保存食を何食か。
「これから旅に出るのかい?」
「そうです。魔術のことを知るためにどこか遠くへって思ったんです」
「それなら君にこれをあげよう。これからの旅路に幸多からんことをってね」
商店の店主から手渡されたのはランタンだった。
「いただいてもいいんですか? 」
「なんとなくだよ。道に迷ったときの道標にもなるからね」
「ありがたく受け取らせていただきます」
何だか曖昧なよくわからない答え方をされた気がする。深く詮索しない方がいいのだろうか。軽く会釈をしてから店内を見て回る。この商店は物が豊富に取り揃えられていた。一番アリフェが驚いたのは大きな魔鉱石だ。売り物ではないらしいが存在感を放っている。
広場のの方が騒がしい。行ってみると、ギルドのマスターが何か話していた。要約するとどこかの山奥で魔物の大量発生が起き、王国の騎士団とギルドに所属している冒険者で討伐に行くらしい。出現した魔物が少々特殊で討伐に参加できる者を募っているそうだ。
そんなことを気にすることなく3日後、アリフェは出発した。
ニジュレ
大きな図書館がある町。ギルドの集会所があり、冒険者で賑わっている。宿の女将は1人でクマを退治したことがあるとか何かと武勇伝が多い。
魔鉱石
魔力が込められた鉱石。魔力を込めると独特な光を放つ。稀に固有魔法が使えるものが存在する。込められている魔力が多いほど扱いに注意しなければならない。
騎士団
国のために仕える騎士の団体。いくつかの部隊に分かれており、近衛騎士隊と魔法騎士隊が有名。状況によってはギルドと協力することがある。