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ダンジョンで迷子
好奇心で入ったとあるダンジョンのなか、先頭を歩いていたネリネは立ち止まった。それに合わせてアリフェは不思議に思いながら立ち止まる。ルーフもクエスチョンマークを浮かべて止まった。
「どうしました?」
「あのね、アリフェ、怒らないで聞いて欲しいんだけど」
「内容によりますが、そう簡単には怒りませんよ?」
ランタンに照らされたネリネは困った表情をしている。
「道に迷っちゃった……」
「そんな気はしていました。同じ道を3回も通っているんですもの。迷っているんだろうなと」
このダンジョンは道がかなり複雑で迷いやすいことで有名だった。アリフェ一行は例のごとく道に迷ったのだ。
「ごめんね……」
ネリネはとてつもなく項垂れている。アリフェはそんなネリネをなぐさめていた。
ワフッ
ルーフが何か伝えたそうな顔をしている。
「どうしました? ルーフ」
「もしかして出口が分かるとか?」
バフッ
どうやら肯定なようだ。尻尾をパタパタ振っている。アリフェは霧の森でのできごとを思い出していた。
「道案内よろしく!」
ネリネはそんなアリフェの反応を気にすることなく前向きに捉えて進みだした。
ワフッ
自身満々に歩きだしたルーフは無事に出口にたどり着くことができるのか。ひたすらルーフの尻尾を追いかける。
ネリネは分かれ道の進まなかった方に箱があることに気づく。
「あれって宝箱?何か入ってるかな」
と見つけた宝箱に興味津々だった。
ミシシッ
宝箱からは不気味な音がしている。それに気がついていなかったネリネはどんどん宝箱に近づいていた。
「すぐにどこかに行こうとしてはまた迷子になりますよ……って危ない!」
ビー
宝箱が突然開いたと思えば輝きだし、魔物へと変化した。
「おっと!」
暴れだした魔物を避けるように後退する。
「あれがかの有名な|罠箱《トラップボックス》なんですね」
「話では聞いたことがあるけれど初めて見たよ。魔物だったら対処は容易い」
ネリネは腰に携えていた片手剣を構えた。片手剣には不思議な紋様と小さな魔鉱石がついている。魔物が動き出すよりも先に間合いを詰め連続斬撃を決めた。
「久しぶりに見ましたが圧巻ですね」
幼い頃からネリネの剣術を見てきたアリフェは感嘆の声をあげた。
「でしょ~。こう見えて実は魔術斬撃もできるんだよ」
褒められて照れているネリネは自慢げに話した。
「だから、片手剣に魔鉱石がついているわけなんですね」
少しダンジョンの雰囲気が変わったと思えば突然魔物の群れがアリフェ達に襲いかかってきた。魔物は全部で5体。2人が構える前にルーフは駆け出し吠えた。
「危ないですよ!戻ってきなさい!」
「ルーフ、いーこだから戻っておいで」
しかしルーフは言うことを聞かなかった。
ワオーン
遠吠えが響くと魔物を中心に魔法陣が広がる。魔法陣から氷の塊がいくつも出現し、魔物に雨のごとく降り注ぐ。アリフェの扱う魔法にどこか似ていた。土煙をあげ、魔物の群れはどこかに逃げていった。
ルーフは事を終え心なしかドヤ顔で尻尾を振る。そもそもの話、魔法もとい魔術を扱うオオカミなんて前代未聞であった。
「ルーフ! あなたは何てことをするんですか?! 魔術を使うのってものすごく危ないんですよ!」
「もうどこから突っ込んでいいか分かんないよ」
それでもルーフは嬉しそうに尻尾を振り、アリフェはルーフを叱り、ネリネは目の前で起きた出来事に対する思考を放棄している。
「とりあえず、先に進んだほうが良くない?」
一足先に正気に戻ったネリネが前進するように促す。それからルーフの案内でしばらく進んでいるとようやく出口らしき明かりが見えてきた。ルーフのお陰でようやくダンジョンを脱出することができたのであった。
「やったー!出られた!」
「だいぶ時間がかかってしまいましたね。どうなるかと思いましたが脱出できてよかったです」
大喜びする2人のとなりで
バフッ
とルーフは満ち足りたような表情をしている。振りきれんばかりに尻尾を振っていた。
「よくやった、ルーフ!」
ネリネはルーフをもみくちゃにモフモフするのであった。
「ところで、どうしてルーフは魔術を扱えるのでしょう?オオカミが魔術を使うなんて初めて見ましたよ」
問いてもルーフは首をかしげるだけだった。
「アリフェのことを観察してたからじゃない?それかもともと魔術が使えたけと今まで使ってこなかったとか」
アリフェはネリネの言ったことがいまいち理解できなかった。それを察したネリネはそれ以上ルーフの魔術について触れようとはしなかった。
ダンジョン
大昔に作られた地下迷宮。大抵の場合魔物の群れが暮らしているかトラップが仕掛けてあることが多く生半可な気持ちで入った者は帰ることができない。
|罠箱《トラップボックス》
魔物が宝箱に化けている箱のこと。近づきすぎると爆発しながら魔物の姿に変化する。