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第2話:旅路〈名前〉
目を開けると、知らない馬車の中だった。
どうやら、だいぶ遠くまで来ていたらしく窓の外に広がる草原は私の記憶にはないものだった。
馬車の進む方とは逆の方を眺めると、私の暮らしていた町の城門が見える。
左を見ても前を見ても誰も座っていない。
外に出ようと思えば出れるが、何故か身体が外に出ることを拒んだ。
多分、ここで外に出たところで外も知らない私は数日もしないうちに魔物に食われて死ぬか餓死するだろう。
そういう考えから私は、外を眺めこの馬車が止まるのを待つことにした。
多分、数時間が経過しただろう…。
外はお日様が顔を隠しお月様が顔を半分隠しながらこっちを見ている。
たまに寝落ちしていたから睡魔は襲ってこないが…。
正直に言うと、ずっと馬車に座っていると腰が痛い…。
ほんとに、この馬車に私だけなのだろうか?
もしそうなら、この馬車を止めたい…。
そういえば、この馬車は誰が動かしているのだろうか?
お貴族様たちの馬車には馬を操る人が一番前に乗っている。
窓の位置からもその操る人が見えると思ったけど…朝から人を一人も見てない。
まるで、馬が勝手に走っているかのような感じだ。
その疑問を解消したく馬のいる方の窓を見ると…。
そこには、首なしの馬が二匹と人骨の魔物スケルトンがいた。
「っひぃ…」
私は驚きのあまり、椅子と椅子の間にある床に尻もちをついた。
何故ここにスケルトンと…ノンヘッドホースが…。
スケルトンとノンヘッドホースとは、アンデッド系統の魔物で冒険者の中で言われているランク分布だとどちらもDランクに該当する魔物だ。
しかし、馬車を引くほどの知性のあるスケルトンや朝から走り続けても疲労をしないノンヘッドホースの事を考えると多分Bランク相当の強さだろう。
分りやすく例えると、このスケルトンとノンヘッドホースで小さな村なら破壊可能だ。
一般人…ましてや、奴隷の私なんて…涙すら出さず殺されるだろう。
そんな魔物が居るのも驚いだが、そんな魔物が従順に馬車を引いてることにも驚きだ。
多分、主人に頼まれた従者的な立ち位置だろうけど…。
その場合、その主人は最低でもAランク以上。
私は姿すら見れず殺されるだろう。
…姿が見えない…。
もしかして、ここには既に主人が乗っていてただ見えていないだけなのでは?
「ふふ、正解だ。君は以外に頭がさえるらしい」
脳内を読まれた?
誰かいるのか確認したいが、目の前を手で隠され誰なのかどんな姿をしているのか分らない。
「ど、どちら様ですか?」
「ふふ、それは後ほど説明しよう。しかし、ずっと馬車の中では疲れただろう。私が良しと言うまで目を閉じといてくれるかい?」
「それ以前に、私は目を覆われているのですが…。」
「いまから、手をどけるからさ」
「そういうことなら…」
私は、手がどけられるよりも先に目を閉じよしと言う言葉を待った。
「〈マジック三番曲〉……もうあけてもいいよ」
案外早かった…そう思いながら目を開けると、さっきの馬車とはまた別の場所に来ていた。
ピンク色や水色といった明るい色と緑や黄色等の自然の色が入り交じる場所だった。
しかも、馬車の中とは比べ物にならないほど広く一つの街がすっぽり入るんじゃないか?と考えてしまうほどだ。
「ようこそ、楽園へ!目的地に着くまで大抵はここで過ごすことになるよ」
声の方向には、私と同じサイズのクマの人形がいた。
「人形が…喋ってる?」
「あれれ?もしかして、怖かったり…」
「お人形さんが、喋ってる!?」
「あらら、目が輝いてるや…。流石、あの方の娘っていうか…。」
「お人形さん!お人形さん!ぎゅーってしてもいい?」
「どうぞ」
私は、知らない誰かが止めに来るまでお人形さんのモフモフ感を満喫したのだった。
あの後、一人の少女の通報を受けた上司が私をこっぴどく叱りお茶会のような場所に連れてこられた。
そこには、二人の仲のよさそうな少女とその少女の後ろに背丈の高いメイド服を着た女性。
そして、少女から見て左側に見たことのない服を着たおじいちゃんが座っていた。
「では、まずは自己紹介から始めましょう。ではまずは、魔将様からお願いします。」
そう、メイド服の女性が言うと上司が立ち上がり話し始めた。
「あぁ、こいつの元上司であり、魔王軍魔将が一人、如月フミだ」
高い部分で結んでるのに、腰くらい伸びる黒髪。
そして、髪からのぞかせるのは赤と白の混じった綺麗な角。
スタイル抜群の身体を引き立たせるような軍服は上司を一言で体現しているように感じる。
…というか、上司って如月フミって名前なんだ…。
なんだか、あまり聞かない響き…。
「その顔、俺の名前知らなかったな?」
「…ソンナコトナイデスヨ」
返しが悪かったのか、冷めた目で見られた。
「では、次に魔帝第1騎士団団長様」
「ふむ、儂か…。初めましてお嬢さん、儂は魔王軍魔帝第壱騎士団団長の玄破浩〈クロハ ツグル〉じゃ。老人じゃが、そこのフミの師匠でもある。剣技を教えてほしいなら、儂のとこへ来るがよい。」
お、おぅ…。
なんだ、何て言うんだこの感情…。すごく、心地のいい声だ。
白髪で肩にかかる髪は、なんというか、老剣士という感じがする。
そして、何よりも彼の着ている服が私が見たことのある騎士の堅苦しい鎧ではなく、もっとラフな服だ。なんていう名前なのか、分らないがなんか…凄い良い!
「おい、ジジィ!俺”が”こいつの師匠になるんだ!お前は黙ってろ!」
「なんじゃ?弟子の分際で…儂に逆らうのか?」
師弟子仲が良いわけでは無いのだろう…。
と言うか、めっちゃ圧が…怖い…。
「お二人とも、次の自己紹介に行きたいので少し静かにできますか?」
「「…!!…すまない」」
メイドさんがそういうと、二人は少し驚いた顔をして直ぐに落ち着き座りなおした。
「では、魔帝第五魔術師団団長様、副団長様お願いします」
「どうも〜魔帝第五魔術師団団長の風上つむぎだよ!」
「ふ、副団長の風上ななです…。」
双子なのだろうか?同じ金色の髪に同じ服、そして同じ背丈の少女二人はそう自己紹介をした。
団長と言ったつむぎさんは元気な女の子で、逆にななさんはずっとつむぎさんの後ろに隠れていそうな感じの雰囲気を出している。
だけど、何故かどちらかと言うとななさんの方が少し威圧感が強いような気がする。
…気のせいだといいんだけど、「お姉ちゃんを取るな」とでも言いたげな感じだ。
「では、メイドの私は最後に回しまして…フミの連れ子さんの自己紹介をお願いできますか?」
「…私!?」
「はい、私たちは貴方様の名前も知らないので」
「えっと、私は…」
そこで気が付いた。
私は、名前を持っていないことに…。
いつも、こいつやお前と呼ばれていたせいで親に呼ばれていた”名前”を忘れていたことに…。
思い出そうにも、主人に拾われた後の事しか思い出せず嫌な…思い出したくない記憶だけがどんどんよみがえってくる。
「私は…わたし…は」
「なぁ、無いなら作ればいいんじゃねえか?お前が、こういう人間になりたい…こういう人になりたい…そう願える名前を自分につければ良いんじゃねえか?」
名前を必死に思い出そうとしているのがばれたのか、上司ことフミさんがそう言ってきた。
自分がどうなりたいのか…。
どういう”人間”になりたいのか…。
考えれば考えるほど、分らなくなっていく。
「ねぇねぇ、フミちゃん名前って…自分が好きなものとかでもいいの?」
「大抵は、自分に自分で名前を付けるってことがないから分らないが…。まぁ、好きなものを名にしている奴もいるんじゃねえか?」
つむぎさんが、こちらを見ながらフミさんにそう問う。
私が余りにも悩んでいたから助け舟をくれたのだろう。
好きなもの…か…私は、奴隷だったし、好きなものなんてあんまりないんだけど。
あったとしても、直ぐに壊されるし…。
その考えに直ぐ違和感を感じた。
奴隷の私が、そもそも物を貰えるはずないのになんで壊されるなんて…。
「おい、大丈夫か!?」
頭痛で、頭を抱えたのに気が付いたフミさんが心配してくるが…そんな声も今の私には聞こえない。
何かが思い出せそうだ。
元主人より前の…暖かい存在…。母について…。
目が覚めると、ベッドに寝かしつけられていた。
多分、さっき記憶を探りすぎて脳が限界を迎えたのだろう。
正直、余り思い出すことはできなかったが…。
母との思い出の一つに何かの小さな葉をお揃いの髪留めにして付けているのを思い出した。
もしかしたら、それが記憶を取り戻す行為へのカギとなるかもしれない。
木の葉っぱ、小さな葉っぱ…。
良いのが思い浮かばない…。
うーん…そうだ!
名前を思いついた瞬間、フミさんたちが私が起きたという知らせを受け走ってこっちに来るのが見えた。
「心配させるなよ…。ほんとに…。」
「ごめんなさい…。」
だいぶ心配をかけたようで、一先ず謝っておく。
「皆さん、私の名前を決めました!」
「ふむ、名を決めるのに脳を使いすぎたのかのぉ?」
「どちらかと言うと、その決めている最中に昔の事を思い出そうとしてって感じで倒れちゃったんですけど…。」
「あんまり無理はしないようにしてください。私達の中に回復職は居るものの余り精度のいいものではないので」
「悪かったね!精度が良いものじゃなくって!」
そんな感じで、しばらく雑談が続いた。
多分、相当心配をかけたんだろう。
フミさんに至っては、目元が少し赤くなっている気がする。
「それで、お前の名前は?」
「私は、今日から”このは”と名乗ります」
「苗字は?」
「みょうじ?ファーストネームみたいな物ですか?」
「ああ、例えば俺の如月やジジィの玄破。あと、そこの二人の風上だったりな」
名前の前につける物…。
「うーん。あんまり思い浮かばない…。」
「苗字は、俺達に任せろ。また倒れられた困るからな」
「では、お任せします。」
そうして、メイドさんを残して全員がどこかへと行ってしまった。
よ、4000文字!?
久々にこんなに書いた気がする…。
自己紹介小説なのに…。
あんま、書くことないから応援や感想をもしよければ送ってください!
じゃあ、また来週~