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無垢なるきみに
はろーまいねーむいず、ぎょっせんぬ、MUKUNARUKIMINI、どうぞ☆
※この作品には”殺人”の要素が含まれます※
登場人物
マーリー・ドット:23歳。音楽といちごジャムが大好き。意外とロマンチスト。
メアリー・ドット:24歳。マーリーの妻。ジャムとレモンティーを作るのが得意。
ブラウン・ウィリアムズ:17歳。同性愛者。自殺志願者で、レモンティーが好き。
水瀬 白音:26歳。アザラシと人間のハーフ。泳ぎが得意で、作るミートパスタは絶品。
ドミル・ダ・ルーカス:年齢不詳。水死体もどき。死んでも生きてもいない。ペスカトーレが好物。
ユル:6歳。作用もあまりわからぬ薬を作っては大騒ぎを起こす。バカにされると口達者になる。
キュアム:7歳。ユルの右腕(?)肝が座っていて、頭が良い。植物が大好き。
アルト:4歳。体は4歳で止まっている。歌が大の得意。背中には三本の触手があり、自由自在。
バルト:年齢不詳の森の守り神。喋るのが苦手。シュークリームに目がない。
妻を殺した。
深い森の奥。頭がぱっくりと割れてしまった妻の死体を見下ろしながら、この死体をどうすればいいのかと、考えあぐねていた。
だが人を殺したあとというのに、私の心は穏やかで、朧気に寝入る時の鼓動と全く同じであったのである。
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私はつい最近まである研究機関に拉致されていたらしい、どうにもその頃の記憶がなく、後に私の体に残ったのはまるで熊のような耳と尻尾、人ではない力の強さ、足の速さ。そうなりながらも第一は妻のことを考えた。だが今は何年何月何日なのかわからない
歩いたのだ。深い森の中を。夢遊病者のように。寒さに震えた体では何も出来ないと思い、もはや何者でもない何かから剥ぎ取ったコートを着込んで、そっと街へ繰り出した。なぜ街がわかったのか、ひどく遠くにそびえ立つ城が見えたからである。
手持ち無沙汰に地面に覚えていることを書き連ねてみても、数えるほどしかない。覚えているのは私には妻が居ること、名前はマーリーであること、もう一つ、妻の淹れるレモンティーと、作ったいちごジャムが大好きだということ。それに、家の住所。忌々しい研究所から出た後。とっぷり日の暮れた道を歩き、崩れたパズルを治すように、あるきながら考えていた。
たしかあの城の名前はなんと言ったか…クレーヌ城だろうか、別名デメルング城とも言うらしい。
なぜ別名があるのか、私はそこまで思い出せなかった。代わりに思い出したのは、この国は小さな少女が治めているだとか。名前はなんと言ったか、”11歳”ほどだった気がする。
きらめく街頭が見え、すっかり変わってしまった町並みに目を剥いた…まるで、タイムリープをしてしまったように感じる。
通りすがりの者に耳と尻尾を隠しながら、家の住所で場所を尋ねると、別の方向を指さした。
「あっちだよ、あのパン屋の角を曲がって、先にお城が見えるからね、お城が見えたら、その左手に細い通りがある、その行き当たりだろう。」
よかった、覚えられそうだ。
そっと礼を言い、妻の待つ家へと駆けた。
鼓動が跳ねている。
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帰る早々、妻は私をはねつけた。どうやら本当に私かとわからなかったらしい。何分も説得して、妻はまだ信じがたいような顔をしたが、家に入ってとそっと迎え入れられた。それから何時間も語った。妻との思い出を、この思い出の家だからこそ、湧き上がってくるのだ、忘れていた記憶が。
妻との結婚を良くしない両親に歯向かい大喧嘩を起こしたこと、妻とこの国へともに駆け落ちしたこと。細部にわたる思い出の記憶が、易易と思い出せる。そう、鮮明に。
次第に妻は涙ぐんでいき、高い声で名前を呼ばれると、胸が跳ね上がった。ひどく嬉しかった。
どうやら私は3年間もあの研究機関に居たらしい。その3年、とてつもない時間を待っていてくれた妻の一途さ、健気さに感謝し、夫さえもとらず、私を信じて待っていてくれたのだ
待っていてと言われて、家を見回していると、コトッとマグカップが置かれ、レモンのほのかな良い香りがした。
そっと湯気のたつそれを飲むと、柔らかな甘味の中に、ほのかな苦味があふれる。
にっこりと笑ってくれた妻に笑い返すと、ふわりと温かな空気が家に溢れ、人間で言う心という場所が、暖かくなっていった。
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これほどまでに私のような円満な家庭はあるまい。これほどまでに、素晴らしい愛はあるまいと。
ベットに入った私はそう思っていただろう。
そんな私を叩き起こし、妻は私に声を張り上げたのだ!!””出ていけ、この化け物め””と。
驚く暇もないまま、妻は私へナイフを向けた。
耳と尻尾があるだけで、少し力が強いだけで。なぜ人はこうも変わってしまうのだろう。迷信深い妻のことだが許せなかった。生涯をともにしようと誓った妻にそういう言われることに、私は良しとしなかったみたいでなぁ。
次の瞬間には暴れる妻を引きずって、長年乗っていない車に連れ込み、深い森の中で引きずり下ろし、斧を頭に打ち付けてしまったのだ。何度も何度も、恨みをぶつけるように。後悔などない、これでいいと言い聞かせたのだから……きっと。
小さな滝のように溢れた血液はやがて穏やかになり、豊かな森の一つの地面を汚した。いいや、飾ったと言ってもいい、その時の妻の血は、夜空にきらめき、美しいようにさえ見えてしまったのだ。夕焼けが湖面を彩るように。
しばらく見とれ、そっとその場を後にした。斧は持ち手をきちんと拭き、車へ乗り込み、何食わぬ顔で私は我が家へと帰った。
ここには居られないと足早に荷物をまとめ、そっと妻と同じ場所へ行こうとまた森へ出向いたが、目印などをつけなかったせいか、愛しの妻を見失ってしまったのである。森をさまよう内に、ひどい寒さに襲われた。あぁ、私もここで……そう思ったのも束の間、神が手を差し伸べてくれたのだろう。
大きな屋敷を見つけたのだ。
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トントンと戸を叩くと、小さな少年が顔を出す。少年も私と同じであることが伺え、安堵した。人ではないのだ、この少年も。
「ようこそ」
「少し…邪魔してもいいかな」
「大歓迎だよ、白音、お客様だ!」
電気がフラッシュのように一瞬瞬き、美しくきらびやかな内装を浮かび上がらせた。
「随分大きいお客様だなあ。いらっしゃい、白音って呼んで、あれはドミル」
にこりと微笑む青年は白音といい、魚のような尾やヒレが見えた。奥の椅子に座る無愛想な若者はドミルといい、見たところ人間と変わらなかった。
「ぼくはアルトね!!こっちはバルト」
幼いアルトという少年はタコのような腕のようなものが背中に3本あり、その後ろに佇むのはバルトというのだろう。無感情の冷ややかな光をたたえ、すこし身震いしてしまった。それから付け加えるようにアルトが言った。
「あと二人いるんだけど…もう寝ちゃったんだよね、明日紹介する」
どれも私と同じ人ではないもの。安心して、そっと力が抜け、トランクが落ちた。
「きみのお部屋に案内してあげるっ」
小さな少年に手を引かれるまま、人を殺めたあとだと言うのに、私の顔は穏やかな笑顔だった。
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この屋敷に住んでから数ヶ月。ある人の子が屋敷を訪ねてきた。
妻のような可愛らしく美しい顔つきに、ふわりとした黒髪。黄緑の不思議な目を持った青年であった。
好物は私と同じレモンティー。私を見て化け物と言わないところが、何より嬉しかった。
名はウィルと言った。そして私はこの青年に深い親近感と同時に好意を抱いたのは言うまでもない。妻と同じ、一目惚れであったからだ。
『妻に似ている』というだけではない。それ以上にも、妻には見えなかった細かな気遣いと優しさ。高いぶっきらぼうな口調であっても、相手を思っているのが感じ取れる。
ウィルがやってきた翌日の晩。部屋に招いて、レモンティーをごちそうしてやると、うれしそうに顔をほころばせた。
安心してくれたのか様々なことを口走った。
死にたくなった末、この森でユルに出会ったこと、親からの虐待を受けていたこと、音楽や文学が好きなところは私と気が合い、楽器の話になり、私がヴィオラが弾けるといえば、彼はヴァイオリンが弾けるといい、ヴァイオリンを持ってきて、一曲披露してくれた。華やかで美しい、歪みのない綺麗な音。随分の手練なのが伺えた。
「なにか弾いてくれ」と部屋の隅に鎮座するヴィオラを指差し笑顔で言われ、久しぶりに持ってきたヴィオラで弾いていると、ウィルは真剣な顔つきで聞き入っていた。それから立ち上がったと思えば、にこやかに笑いながらそっと弾き始め、一人では出せない深みが生まれたのである、これは俗に言うアンサンブルというやつであろう、どうにも妻は楽器が弾けなかったもので、これはまた一人では味わえぬ楽しさを与えてくれた。
引き終わってから、気が抜けたのかころりとベットに寝転がったウィルを見ていると、まるで無垢な子犬とじゃれているような気もするが、私が彼に向けている愛情はペットや子どものそれではないだろう。
目線に気づいたのか嘲笑うようにウィルがにやけると、ひどく言われもない憔悴感に包まれてしまった。いや、理由がないわけではない。このウィルと言う青年の無垢さと向き合っていると、こんな私がいていいのだろうかと、何度も考えてしまう。
私が人殺しだと知ったら彼は態度を変えるだろうか。
もし変えなかったら__。
私が愛しの妻を殺してしまった顛末を、事細かく彼に口走りたくなる衝動を。猫が獲物を見せるようなものではない、私は彼を試したいのだ。ある王が騎士を試したように。
「きみは…人を殺したことがあるか?」
言ってしまった。その途端にウィルの表情が曇り、そっとベットから身を起こして、私の目を覗き込んでくる。
「あるわけないだろ」
私の深い問いをさらりと流し、にっこりと白い八重歯をみせて笑う姿が綺麗で、そっと頬に手を添えると、頬ずりとやらをしてくる。
私は人間ではない。醜い陰獣だ。
それを理解した上でこの青年は私のそばにいるのか。
この無垢なる青年は、私の醜い本心を見透かすように、身を寄せ、そっと囁いてきた。
「あんたは、あるんだろ」
どくりと心臓が脈打って、戸惑いを隠そうと表情を取り繕うとしても頬が動かない。
「図星かぁ」
「違う、私は人殺しではない」
「そんな顔で言われてもなあ」
愛おしそうな眼差しで、まるで母のような眼差しで、そっと髪を撫でられる。それからそっと頬にキスをされたかと思うと、ヴァイオリンを片手にふらりと部屋を出ていってしまった。
通報されてしまうだろうか。彼は私をどう見るのだろう。一つの秘密が暴かれても尚、私は椅子に腰掛けたまま、しばし考え込んでいた。
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翌朝、警察が屋敷に来ることも、ウィルという青年がいなくなることもなかった。
朝に顔を合わせると、まるで秘密を知った無邪気な子どものようにいたずらな笑みを浮かべ、冗談なのかふわりと抱きついてくる。
答えるように背中に手を回すと妻とは違う硬い感触で、彼からは妻と同じみかんのような匂いがした。そっとてを離すと、ウィルが話しかけてくる。
「あんたさぁ、俺のこと……」
そう言いかけて、かなり大きな声でドミルが叫んだ。「朝っぱらからハグしあいっこは無し、部屋でやってよ」
それから白音がやってきて、ウィルに声をかけてから、私を見てにやけ、それをみてウィルがつまらなそうに出した吐息でさえも過剰に反応し、私の動揺を面白がって鼻で笑い、そっとメモを渡してきた。部屋を伺ってもいいか、そんな内容である。
そっと玄関をくぐって外にでかけたウィルの背中を見て、恥ずかしいような、若気の頃とは違う、昨日と同じ深い憔悴感に、まだ柑橘系の残り香が鼻をくすぐって、いたたまれなくなってくる。思わずしゃがみ込んでいると、白音に声をかけられる。
「昨日さぁ、僕のところに来たんだよね、ウィルくん」
それからバシッと背中を叩かれ、その言葉が言外に含む意味を汲み取ってしまった。
「しっかりやんなよ、応援してるから、w」
--- どうやら私はあの青年に、どうしようもないほど、恋をしてしまっているらしい。 ---
まるで駆け抜けるような淡い恋慕につつまれて、和やかな昼の静かなる屋敷に、朝を告げるやわらかn な光があふれた。
ほぼ書き殴り、マーリーのちょっとした過去からウィルとの出会いまで、いかがでしたか
変換ミスとかあったら教えてなあ