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安楽死施設職業体験
約4000文字
安楽死で子供死体を子供が確認するシチュ。
思ったより普通の小説。R15くらい?
令和〇〇年。少子化の激しい日本は外国人を大量流入してV字回復を図っている。日本人と外国人の人口は逆転し、公用語は英語になった。
中学受験は熾烈を極め、韓国のような高学歴戦争のさなかにあった。
安楽死法案が導入されて〇年が経過した。
その頃の世論は少子化に苦慮して税金地獄に苦しめられていた。子を養うのも、出産するにしてもたぶんに責任を伴う。こんなにも苦しい中で生まれてくる子供は、せめて普通以上であれと。手間のかからない、日本語の読み書きができ、それで我慢強い子……それ以下は殺されてしかるべき。選民思想がトレンドであった。
生まれながらに生きるのに手間がかかる子供や障害児として生まれ、人間としての意思疎通はできない人つまり社会で役に立たない人などは、早々に来世へ逝ったほうが良いという風潮だった。
生きていてもお金を浪費するばかりの人。生きる意味を見いだせない人。性別不一致で適合手術を受けれない人。うまく日本語が書けない・喋れない人。不登校ニート。自殺志願者。人間の形をした失敗作、不良品……などが対象だ。
これは子供にも適用される。
生前、胸に付けた十ケタの|死体識別番号《マイナンバー》――八ケタの生年月日+出席番号が書かれていた。流される子供たちは裸だった。鎮痛剤か麻酔薬を吸わせて意識はすでに喪失されて、動こうとしない。その後人の手で脱がされている。下着もすべて。
死体になるものに服など着る必要はない。性別を隠す必要はない。人の手で取り去られ、陰毛の有無も男女の差異も、一目で分かるようになっている。社会では隠されていたが裸にしてしまえば性器を確認でき、服を脱がせば性別ははっきりする。一応眠っているだけでまだ生きている状態だが、あと数時間で死に至る、かわいそうな予定運命である。
縦長の箱が用意されてある。大人用の棺だ。つなぎ目の所が黒い金具になっていて、蓋の上部に両開き戸があるタイプだ。そこに幾人かの子供たちを静かに入れて、棺の蓋を閉める。作業員は棺の四隅のかどに釘を打つ。
だんッ――、だんッ――、だんッ――。
葬儀のワンシーンのような静寂の建物に、別れを促す無常なる音が駆り出される。
途中、不運にも幾人かの子供が意識を回復しても、もう遅い。棺の中から素手で、どん、どんと叩かれても外にいる釘打つ人は気にしない。
どんどん、どん。
賑やかな棺は、レーンに載せられ、強制安楽死装置に入れられる。
大仰な機械音が特徴的だ。短冊切りのプラスチックから中へ入っていった。なかは、二酸化炭素、低酸素室、低温度のガス室。
そこに入れられたら最後、強制窒息死させられる。
やがて静かになっていく棺のなか。出口。
レーンは続いており、枝分かれとなっている。
窒息死させられた棺は1時間以内に開封され、死亡確認されて火葬されるそうだ。
もう動くことのない子供たちを乱雑に扱い、死体識別番号通りにチェックされ、その後冷たい棺に戻される。
息を引き取った子供たちはそのまま火葬され、高温の炎で骨すらも残さず燃やされる。粉ような残り物をごみ捨てして終了。
裕福な子供の場合、一人用の棺を充てられる。
やり方は同じだが、オプションに応じて死に方を選択、及び看取りできるという。
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**職業体験の子供たちのレポート**
(1X歳小学生女子)
私が、職業体験として選んだ場所は、安楽死施設です。理由は、上級生たちの負け犬を見てみたいなと思ったからです。
私たちが体験した仕事は死亡確認処置でした。
機械からすでに安楽死処理済の棺が流れてきて、棺の蓋を開けて、すでに死んでいるか確認する作業でした。生前のモノよりもこちらのほうが安楽死施設感がしてとても良かったです。
レーンには、青い作業服姿のお兄さんがいました。そばに近づいて、見学しながら一緒に作業しました。
流れてきました。よく見る大人用の棺でした。色は新品同然のシラカバ素材。近くで見ると少し横長かもしれません。蓋の四隅にある釘を釘抜きを使って抜いて、蓋を開けました。葬儀場で漂う死の臭いがしました。死体の臭いです。
棺のなかに裸の子供(私よりも年齢が高いですが……)2人、入れられていました。段違いになるように、2人は上下逆に入れられていました。ほとんど同年齢の身体つきで、中1から中2の男子女子でした。背の低い子供の場合、三人入れられていることもあります。その場合、ちょうどローマ字の「Ⅳ」みたいな感じで、「4=死」と意味が重なっていて面白いと思いました。
ドライアイスがないのに、カチカチに冷たくなっていました。クーラーボックスのなかに手を突っ込んだようでした。
裸なので、性別の判断ができる状態です。性器が付いている男子だと、つい目がいってしまいます。女子なら気持ち的には楽でした。ただ、自分の背格好を少し膨張させた姿なので、2〜3年後の自分はこうなっているのか、などと目の前の冷たくなったマネキンに自分の未来の想像を重ねてしまって、無気味と感じてしまいました。
取り出す時に、何か冷たいものを触ってしまい、手を引っ込めました。指先を確認すると水滴がついていて、白い霜のようでした。
「処置をした後に、死臭を防ぐために凍らせるらしいんだよね」と作業員さんは言いました。
低体温症でもない限り、生きているとは思えませんが、法律で決まっているからと死亡確認をします。
子供の寝顔姿の目もとに二本指で押さえ、くいと強制的に開けました。目玉焼きのような凹凸がありました。白が先にあって、その後黒目玉が見えました。ぶりんっと柔らかさがとてもグロいと思いました。それで作業員はペンライトの光をあてて、瞳孔反射がないか確認していました。次に聴診器で胸のあたりの音を確かめ、反応がないことを確認しました。その後、胸にある死体識別番号と名簿と照らし合わせて、チェックする。
この間、30秒程度でした。慣れると10秒くらいで終わらせるそうです。
もう一人の方は私が担当しました。
みようみまねで取り組みましたが、作業自体は小学生の私でもできるものでした。ちゃんと死んでくれて有り難かったです。
基本的に死んでるからね、とお兄さんは微笑みながら教えてくれました。
「時間かかっても全然平気。生きてたら大問題だからね」
生きていた場合はどうするのか聞いてみましたが、あそこから流れたモノで今まで生きていた人はいないよ、と答えました。生きていた場合、と質問したけれど、どうやらはぐらかされてしまったようです。
こっそり教えてよ、と伝えると、拒否されたので、性的な交渉をしました。それで根負けしたのかその方法については教えてくれました。レポートに書かないでねと言われたのですが、「ナイフで胸をぐさっとする」とのことでした。死亡確認は職場体験の時のみだったようです。実際は心臓をひと突きしてとどめを刺すのです。小学生の前では刺激が強いと思ったようでした。
その後、お兄さんと作業を分担しながら作業をしました。お兄さんは楽そうな感じを出していました。二人一組なら、作業は半分で済むからです。
基本的に流れてくる生徒に太っている子供はいませんでした。どれも骸骨を写し取ったようにガリガリでした。顔は下あごの骨が強調された姿をしていました。触ってみると冷たく、冷凍食品のようでした。お腹周りを強く触ってみると、バリバリと冷凍チャーハンを砕く感じがあり、新鮮です。内臓は氷でできた肉塊となり、肉汁は出てきませんが触りたいとは思いません。
メンタルを病むと拒食気味になって、食が細くなるからだろうとお兄さんはいいました。この職に就く前、お兄さんは一時期ストレスでそうなっていたと言います。食欲が湧かないんだ、とポツリ。今では天職についた、と言います。確かに仕事内容は楽ですが、死体を触った後すんなり食事ができるかといえば別です。それに先ほどフェラをした対価として知った裏話の件もありました。
私はトイレに行くと言って、こっそり吐きました。思い出し笑いならぬ、思い出し吐きです。このレポートを書いた後も、わたしは思い出し吐きをするでしょう。
平常心のコツを胸に抱いたままトイレから戻ってきました。そして子供の死体と向き合うふりをして生者に話しかけました。しかし、思ったより難航しました。
死んだ子供たちの情報は詳しくは知らないといいます。最近は個人情報がうるさいと聞きます。死にたいと思った理由も、貴重な個人情報だということです。尊厳死宣言をした内容は開示せず、家族間で共有するに留まっています。
お兄さんが予想するに、中学受験に失敗して、人生詰んだのだろう、と予想していました。
人生が詰んだとは、一体どういうことだと質問したら、不登校の末の自殺だと言いました。
受験に失敗して、志願したものとはランクの下がった学校に行ってもモチベーションがない。消し飛んでしまう。友達の輪もうまく馴染めず、コミュニティから孤立して、学校を休みがちになって、引きこもりになります。外に出かけることは一切なくなり、生きる目的を見失うといいます。
それを聞いて、死亡確認を改めてみました。
よく見れば全員寝顔が安らかでした。うまく死ねてよかったね。きっと生きてる間にいっぱい苦しんだんだね。
下級生が上級生にかける言葉としては鼻につくとは想いますが、職場体験前に思った「負け犬」より随分マシになったと思います。私も来年から受験生になるので、これらを反面教師にして、こうはならないようにしようと想いました。
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