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第4話:黄金色の酔い、理性の境界線
扇様との一件から数日。直哉様は「俺以外に甘えんな」という独占欲がさらに強まり、夜は決まって私の部屋を訪れるようになった。
「……おい、紬。親父がええ酒持ってきたわ。自分も少し付き合え」
そう言って直哉様が差し出したのは、琥珀色に輝く小瓶。直毘人様が「とっておき」だと言って渡した、少し度数の高い洋酒だった。
「お酒……。私、あまり強くありませんが……直哉様と同じものなら、一口だけ」
「ふん、子供やあるまいし。……ほら」
差し出されたグラスを一口、口に含んだ。
その瞬間、焼けるような熱さが喉を通り、一気に視界がふわふわと揺れ始めた。
(……あら、なんだか……すごく、いい気持ち)
「……紬? おい、一気に飲みすぎやろ。顔、真っ赤やぞ」
「……なおや、さま……」
自分でも驚くほど、声が甘く、低く漏れた。
普段の古風な口調が、熱に溶けて崩れていく。私はおぼつかない足取りで直哉様ににじり寄り、その胸元に黄金色の髪を預けた。
「……なおや。……あつい、です……」
「っ、自分……呼び捨てに、……待て、どこ触っとんねん!」
直哉様が息を呑む。
私は無意識に、直哉様の襟元を緩く手繰り寄せ、彼の首筋に顔を埋めた。
お酒のせいか、私の「認識阻害」の術式が不安定に暴走し、姿が消えたり現れたりする。それが余計に、私を幻想的で、ひどく扇情的に見せていた。
「直哉……もっと、近くに……。……ねえ、おねがい……」
とろんとした瞳で見つめ上げ、熱い吐息を彼の耳元に吹きかける。
直哉様の喉仏が大きく上下し、私を支える腕に力がこもる。
「……自分、自覚して言うとんのか……! 俺の理性が、いつまでもつと思とんねん……!」
直哉様の手が、私の頬に触れた。
普段の傲慢な態度はどこへやら、その指先はわずかに震えている。
「……明日、何も覚えてへんとか、……許さへんぞ」
直哉様は掠れた声で囁くと、逃げ場を塞ぐように私の顎をすくい上げた。
琥珀色の香りと、直哉様の熱い体温が混ざり合う。
その夜、禪院家の廊下を通りかかった使用人たちは、若旦那様の部屋から聞こえる「……紬、自分……っ、離れろ言うとるやろ……!」という、切実で甘い悲鳴のような独声を耳にし、そっと「ふふっ」と微笑んで立ち去ったという。
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