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明瞭な明日
「知らない」。
こちらを刺すような、寒い寒い冬の朝。
けたたましく鳴る目覚まし時計を、恨みを込めた勢いで手を叩きつけ黙らせる。
布団から出たくもないし、自分の部屋も出たくない。
そんな意思と反するみたいに、私は規則正しく布団から出てパジャマを脱ぎ、学生服に着替える。
「おはよう」
「おはよう」
それ以上の会話はない。
ただパンを食べて、目玉焼きを食べて、サラダを食べて、スープを飲む。それだけ。
そこに感慨も感想もない。定例のメニューだからいつもの味が通り抜けるだけ。
何年経ってもこうなんだろうな、とふと思った。
パンは端っこが焦げてるし、目玉焼きは完熟だけどほんとは半熟のほうが好きだし、スープは全部コーンポタージュ。
パンはふわふわの方がいいし、サラダにマヨネーズはかけないし、オニオンスープを飲みたい。
でもそれを一度も口に出したことはないから、私は「ごちそうさま」って言える。
いつも通りの通学路。見慣れた時間に見慣れた人が家を出て、見慣れた車が前を横切る。
知っている人たちと校門をくぐって、クラスについて。
嗚呼、なんてつまらない毎日だろうか。
目新しいものなんて授業の内容くらい。
でも私は学ぶことに嬉しいと言える人じゃないから、だからこれもつまらないの箱に押し寄る。
だからと言って、何かを求めていると言える人じゃない。
だから私は今日も知っているようなお弁当を食べて、知っている時間に知っている人とすれ違って、知っている玄関を開ける。
知っている間違いをして、知っている時間まで宿題をして、知っているご飯を食べて。
知ってる、知ってる、知ってる、知ってる。
でも、このつまらないは私の心のなかにしまっておかなくちゃいけない。
寂れたおもちゃ箱に、場違いなくらい重たいそれを、平気で放って。
おもちゃ箱のおもちゃはぐちゃぐちゃになったけど、これでいいと思った。
だって私は知らないから。
だって私は見てないから。
二階の、一番奥の部屋。
あの場所の扉に、よくわからない赤い液体がついていても、それ以上は知らない。
だから私は、知っている毎日を享受出来る。
それだけでいい。それだけでなくちゃいけない。
知らないけど、知ってることがあるから、なら全部知ってる毎日でいいと思った。
そんな知らないは、いらない。
だから、嗚呼、あしたが怖い。
何もかもわかりきった、あしたがこわい。