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漸近線
原点O
小説初めてです!
二次です!蜘蛛です!
蜘蛛の二次創作があぁぁ少なあぁぁいぃぃ!
ということで同じ悲しみを分かつ人々のために書きました。
カティア→シュン
許せない方は回れ右
いつの間にか転生して、女になっていて。
最初はものすごく戸惑った。
自分にあるはずのものが無くて、無いはずのものがあったから。
でも、女として生きていくうちに、自分の感性が変わったことに気づいた。
そして、シュンに惹かれるようになって。
シュンがユーゴーに殺されそうになった時、私はものすごく焦った。
シュンを失うかもしれないと思うと、胸をぎゅっと締め付けられるような気がして。
そこで初めて自分の恋心に気づいた。
男、それも昔からの親友をそういう風に見てはいけないと心では思っていたけれど、ダメだった。精神は肉体に引っ張られるのだ。
そして、決定的だったのは、あの時——シュンに、お、お姫様抱っこされた時——私の中の男は魔力の爆発と共に消え去った。
そこからは、シュンのことが好きになっていた。本気で。
私の行動の全てはシュンのためだった。
いつかは重なり合いたいと考えていた。
キスだとかハグだとか、経験を重ねて、最終的にはそういうこともして。
女の子のように、それを夢見ていたのだ。
——いや、本当に女だったのだ。
この気持ちは、伝えたら受け止めてもらえるだろうか。
シュンのことだから、なんだかんだ言って一緒になってくれるだろう、なんて思っていた。
——それが、間違いだった。
◇
窓から、日の光が差し込む。
今日は休日。春らしく暖かくて、過ごしやすい天気だ。
——今日こそ、言わなければ…
そんな中私は、任務を遂行しようとしていた。
「あ、あの、シュン!!」
中庭の椅子に座ってぼんやりと景色を眺める彼に声をかけた。
やばい、緊張しすぎて大きな声が出てしまった。
私のしようとしていることを分かっているのだろう、スーが殺気を込めた目でこちらを見てくる。
スーは、介抱のためだと言ってシュンのそばを片時も離れない。
魂が削られたからといって、日常にそこまで支障があるわけではないのに。
——もうすぐその席を奪ってやりますわ。
「どうしたんだ?カティア」
彼が、いつも通りの優しい目でこちらを見てくる。
それだけでもう、私のちっぽけな闘争心は消えてしまう。
——あぁ、シュン。好きですわ!
「シュン、お花見に行きませんか?」
「花見?桜があるのか?」
街の復興度合いを視察していたら、少し外れたところに見つけたのだ。
今まで見たことがないから、珍しいものなのだろう。
「えぇ、前にそこらを歩いていたら似ている木を見つけたのです」
「あぁ、いいな。たまにはそういう事も」
ほっとしてため息を吐く。
これで第一関門は突破だ。
「兄様、桜とはなんですか」
と思ったら余計なのが口を挟む。
——ちょっとは黙っていたらどうですか。
「あぁ、桜っていうのは、春にピンクの花を咲かせる木のことだよ」
その余計なのにシュンは答えてあげる。
——シュンは優しいですわね。
「ふぅん。兄様、私も行って良いですか?」
——ダメに決まっているじゃないですか!
この女、最初からそれが言いたくて口を挟みましたわね!
シュンがこちらに答えを伺うようにして見てくる。
「ダメです」
——シュンは、私のものですから。
そんな想いを込めて、その言葉を言う。
「わかったわよ」
そのむすっとした顔に、私は勝ち誇った笑みを浮かべた。
◇
はらり、と花びらが散る。
「綺麗だな」
「…そうですわね」
行ってみると、この前の嵐のせいで、花びらが多く散ってしまっていた。
それらが雨を吸った暗い色で地面を埋め尽くす。
下を見なければそれは綺麗な景色だったが、一番良い時期だとは言えなかっただろう。
何か嫌な予感がするのを無理矢理振り払う。
今は、別のことに集中しなければ。
「シュン、実は——大事な話があるのです」
言うと、シュンも真剣な顔でこちらを見る。
——あぁ、緊張しますわ!
この気持ちは、シュンには受け入れられないかもしれない。
だってシュンにとって、私の中身は男なのだから。
だから、断られるかもしれない。
でも、たとえ、たとえ断られたとしても、私は諦めない。
女として見てもらえるように精一杯頑張るのだ。
胸が、どきどきと音を立て始める。
それは、だんだんと大きくなっていき、やがて聴覚の全てを支配した。
——さっきまで聞こえていた、風の音も、葉の擦れた音も、耳に入らない。
それは、視界までも支配しようとしていた。
——シュンの、整った顔や、髪や、私だけを映す目が、視界のほとんどを占領する。
「シュン、」
心臓が、一際大きく脈打つ。
「私は、あなたのことが——」
呼吸が苦しくなる。
酸素をうまく肺に取り込めない。
——あぁ、怖い。でも、言わなければ。
「好きです」
勇気を振り絞って出したその言葉は、呆然とした顔に受け止められた。
「…あ、え……、カティア、叶多?」
胸の内を、どす黒い感情が埋め尽くす。
——分かって、いましたわ。どうせ、そうだろうと。
私は、カルナティア・セリ・アナバルド。——だけど、シュンにとっては大島叶多だった。その証拠に、シュンは私を叶多と呼んだ。
——あぁ、そうでしたわ。私はいつもシュンの気持ちを考えない。
私の告白でシュンが悲しむ可能性を、全く考えていなかった。
さっきまでは、断られても諦めないとか考えていたけれど、シュンの顔を見てそんな気持ちは霧散してしまった。
——私の気持ちは、シュンを悲しませることしかできないのでしょうね。
そうすると、私はもうシュンを悲しませないようにすることしかできない。
「…っ、シュン、嘘だよ。あぁほら、今日はエイプリルフールじゃないか」
偽りの自分を被って。
言うと、シュンはさらにショックを受けたような顔になった。
私が誤魔化したことで、本気だったことがわかったのだろう。
——予感は間違っていなかったのですね。
気まずい空気が流れる。
何か、熱いものが目の奥から込み上げてくる。
それを必死に押さえ込んで、顔を背けた。
「…ごめん」
背後から聞こえた小さい声。
いつもなら、彼の一挙手一投足に、私は喜ぶ。
それは、彼らしい言葉だったけれど、今の私を悲しませることしかできなかった。
◇
それから私は、自分の恋心に蓋をした。
シュンを見て、変わらずに湧き上がる情動を押さえつけて、大島叶多として振る舞う。
それがシュンにとって楽なことだろうから。
シュンの前では男言葉を使う私に、シュンは申し訳なさそうな、痛ましそうな顔をした。
——そんな顔を、しないで。今まで通りに振る舞ってくださいませ。
でも、それでも良い。私にはその程度しかできないのだから。
スーは、帰ってきた陰鬱な様子の私を見て、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
——こんな女に、シュンを取られるのは嫌。
まだ、そんな浅ましい思いを抱いている私に、虫唾が走るけれども、それだけは嫌だった。
シュンを、せめて、他の女から遠ざけなければ。
多分あの時の私は、おかしくなっていたのだと思う。
いや、今もおかしいのだろう。
スーを他国の王妃に祭り上げて、嫁入りさせて。
ユーリには、聖女なら貞潔を守るべきだとか色々言って、シュンから遠ざけた。
王子であり勇者であった、シュンに言い寄る他の女どもも遠ざけた。
——だってシュンは、私のものですから。
あぁ、今も変わらない。シュンの気持ちを考えずに、勝手に行動するところは。
今もまだ燻り続ける残火を心に宿して、シュンに近づく。
そんな私にさえ、シュンは今までと同じように笑顔を向けてくれる。
——私がスー達を遠ざけていることに、シュンは気づいていないのでしょうね。
何かおかしいと違和感を覚えていても、私をそばにいさせてくれる。
おそらく私は、シュンに一番近い人間だろう。
だって私が、そうしたのだから。
——あぁ、シュン、愛していますわ!
けれどそれは、一生叶わない。一生重なり合うことはできないのだ。
まるで、まるで——そう、
「漸近線…」
久しく口に出していなかった言葉を言う。
高校の時に習った言葉。もうほとんど覚えていないけど、それだけはなぜか頭に残っていた。
「ん?カティア、何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
ここには、私と彼しかいない。
彼には重なれないけど——
——あれ、ちょっと待って、漸近線って……?
口に笑みが浮かぶ。
もし私に永遠の命があれば、彼は重なってくれるだろうか。
漸近線のように。
本当の神がいるこの世界では、もしかしたら——。
◇
「あの子はバカですね。漸近線には限りなく近づくだけだと言うのに」
PCの光だけが照らす真っ暗な部屋に、同じく真っ暗な女はいた。
ポテトチップスを食べる音だけが聞こえる。
ふいに、ガチャっと音が響く。
「あなたに数学の知識があったとは驚きです。それよりも、仕事をしてください」
ドアから顔を覗かせる、大和撫子のような女。
それを黒い女は無視する。
「彼女に永遠の命を与えてみたら、面白いことになるかもしれませんね」
「聞いていますか?仕事、し、ご、と、です。というか面倒なことをしないでください」
「いやですよ、仕事したくないです」
「さぁ、行きますよ」
「いーやー」
黒い女が引きずられるようにして出ていく。
部屋からはPCの光が消え、そこには本当の闇が広がっていた。
——彼女の、心のように。
その漆黒に、彼は飲み込まれるのであろうか。
それは、神のみぞ知ることである。