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特定の誰か、でないにしろ、人間に対して殺意を抱くのが人間という生き物である。
その“殺意”の目的は?
快楽のため?
愉悦のため?
名誉のため?
地位のため?
復讐のため?
しかしながら。
“日本”という国家は、殺人を敵視する。
故に、この国での“殺意”とは、ただの“敵意”に過ぎないのである。
「だから、復讐はダメ…ってことですか」
「別に。ただ、殺意を“殺人”として表に出せば、この国の住民でいられなくなるよー、みたいな」
笑って、白は目の前の青年を見上げた。
「巫由良。あんたは自分の人生壊す覚悟はある?」
「あります。母のためなら、自分の人生なんかどうでもいい」
「“母”って故人でしょ?」
「はい」
「なんで死んだ人間のためにそこまでするんだか…」
「家族愛?」
黒が口を挟んできた。
「白に家族なんかいないんだろーけど、普通は、人間には“家族”がいて、愛し合って生きてんだよ?」
「普通って何?あたしが異常って言いたいの?」
黒の顔面を掴んでアイアンクローを決める白。きゃー、と情けない悲鳴があがる。
完全に困惑した表情で、巫は2人のじゃれあいを見守った。爪先が扉の方を向いているのはご愛嬌である。誰だって逃げたい。
「…で。じゃあ、目的は復讐ってことでいいんだよね?自分で殺せるんなら、そりゃまあ楽だけど」
「この手で殺さないと意味がないんです。あいつには、母さんと同じ苦しみを味わってもらわないと」
妙な輝きを帯びた瞳が白を見つめる。
そこに宿るのは、覚悟か、殺意か。
「じゃあ、人探し?そいつも地下街の住人だったら、資料管理者に頼めば良くない?」
「あたし、あいつ苦手なんだよね…」
「根っからの“善人”っぽいから?」
「地下街の住人なのに、珍しいですね」
正直な感想を漏らした巫に、白は溜息を吐いた。
「ぽいってだけで、あいつも“悪人”だからね?騙されたら死ぬよ」
「こけおどしの“悪”じゃんw」
「黙れ」
首を絞められ、ギブギブ、と腕をタップする黒。
「お前が巫連れてあいつに会ってこい」
「わかったわかった!だから許してー!」
ようやく解放され、黒は僕もか弱いのに、とぼやく。
巫を連れて通路に出れば、何処からか鳥の声がした。
資料管理者とは、地下街の住人の名簿や記録を管理する人々のことである。
彼らは、資料を閲覧する権限は持たない。
ただ、依頼に合わせて資料を提供する仕事だ。
黒牙は、この地下街の資料管理者の1人である。もう1人の管理者は、大抵眠っているので仕事はしない。
「30代の男で、10年前は“表”での依頼をこなしてた奴の資料出して。あ、国籍は日本ね」
「注文多くないですか!?ってか、特定はできてないんですね…まあ、黒さんだし……」
「はあ?僕が特定作業苦手って言いたいの!?」
「違います違います!!」
黒牙は半泣きでキーボードを叩く。
そこそこ長い付き合いではあるが、いまだに黒の扱いには慣れていない様だ。
「えーと、該当者は3人ですね。年齢の記載がない人物も含めると、5人」
「俺、記憶力には自信があるんです。写真を見せてもらえれば、わかるんですけど…」
「わかりました〜」
ディスプレイに表示された5枚の写真。
「あ、もしわかんなくても、防犯カメラ探ったりもできるんで大丈夫ですよ」
人当たりの良い、柔らかな笑み。一般人のようなそういう笑い方を自然にできるのは黒牙くらいだ。案外、仲介者になっても繁盛するかもしれない。
巫由良、そして黒牙は雨鬼めけ様が提供してくださったキャラです。ありがとうございました