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〖試験的デトックス〗
語り手:日村遥
瞳が映る。水が怒る。霧が笑う。
花が踊る。毒が泣く。身が散る。
天地が変わる。瞳を見る。
身体が跳ねる。傷が嗤う。
●日村遥
23歳、女性。惣菜部門担当。
得意料理はオムライスらしい。
兄は未だに見つからない。
今も昔も、貴女を置いていく。貴女から離れていく。
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「なんか...臭くないですか?」
「は?」
霊歌によって浮かされたチョコレートの箱を見ていた一護が隣にいた上原にそう伝え、なんとなくでキレられました。
「いえ、その、そういうことじゃなくて...」
「...煙草か?口か?足か?脇か?......加齢臭か?」
「まっ...まだ、29歳じゃないですか...お子さん、おいくつなんですか?」
「1歳か2歳か...まだそんくらいだ」
そう応えて遠くを見る上原。柳田が軽視している心寧とてんやわんや話をしています。
その先でチョコレートの箱を点検する別の男性の近くに何か液体が降り、その男性が倒れるようにしてその場から動かなくなる。
ちなみにこの男性は|秋山《あきやま》さんと言います。一応大学生でオカルトサークル部長なのですが、最近は何やら奇妙な儀式をしているようで、色々大変で物凄くドラマ性があるのですが、それはまた別の機会に。別の機会ったら別の機会です。
上原がその男性に向かうが早く、一護が先に動き、その男性を見ました。
特にこれといった外傷はないものの、身体が何らかの液体に浸り、動かせなくなっているようです。
「...えっと...あぁ...秋山さん!」
「僕の名前...ちゃんと覚えて...言って、ね......僕...もう、ダメみたいだ...あぁ、パ◯ラッシュ...疲れたろう、僕...も...疲れたんだ...なんだか、とても...眠いんだ...」
「俺、橘一護です!パト◯ッシュじゃないです!...秋山さん!!」
「そんな...もし...この毒が身体に害...............あっ、甘いわ、これ。一護君、これ食ってみ、甘いよこれ」
「あ、そうなんですか。ちょっと床に落ちてるの抵抗あるんで、遠慮しときます」
身体があまり動かないことを良いことにへらへらと笑う男性に上原も到着し、特に心配する素振りも見せずに「今月、減給な」と告げる。男性の顔が強張りました。
ふと、ふざける三人の上で物音がしました。ガタッと音がして換気扇からドロドロとした液体が出て秋山の顔に垂れました。
若干、肉の焦げるような音がしましたが、平気そうでした。
一方、後ろ手の四名の中で、
「大丈夫そうやな」
霊歌がチョコレートの箱を下ろしながら確認をした。
その言葉に緊張が解けたのか柳田が笑って空知に言った。
「じゃあ、手分けして消費者を探そうか」
心寧が若干嫌そうな顔をしました。
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廊下を空知と心寧が少々険悪なムードを醸し出しながら歩いている。
「どうして私があなたと一緒じゃなきゃいけないんですか?」
「そんなことを言われても、僕が決めたわけじゃないですし...そんなに危険性のない能力っぽいから大丈夫だとは思いますけど...」
「...なら、私一人でやります」
「いけます?いけるなら、遠くで援護しますけど...」
「.........」
「あ~...そう、ですね......僕、ちょっとこっち見てきますね...」
逃げるようにして心寧から離れ、廊下の途中の部屋へ入る。後ろから心寧が廊下の先へ進む足音が聞こえた。
なんなんだ、あの人は。可愛らしい見た目の花なのにうっすらとした軽蔑を感じるではないか。
物を投げられたりしたのがそんなに恨み募っているのか?
だとしても、ほんの数日の数時間のことなのだから、単に上につく人が苦手なのだろうか。
仮にそうだとして、協調が思ったより重視される環境下で上手くやっていけるのか気になるところだ。
色々としたことを口に出さずに部屋を見渡す。
ガムテープの貼られた通気孔がギチギチと音を立て、水がやがて吹き出す。
「...この建物も、だいぶガタが_」
「そんなに時が経ってる建物なの?」
後ろから前に聞いた声がして、ゆっくりと振り向く。
長い銀髪にロングドレスを着た女性。この蒸し暑い夏でもその格好でいられるのは能力のおかげだろうか。
「ああ...出水...いや、鈴さん...。
ガタっていっても、ほんの四、五年ですよ。...あの水って_」
「あたしだけど。通気孔から物音がするから同じ液体っぽいし洗い流すのと追い出してやろうと思って。...なんか悪いの?」
「...いえ、助かります...」
この人はこの人で高圧的ではあるけど...良い人だよなぁ...。
心寧さんも根は良いのだろうし、わだかまりが解けるといいんだが...。
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「上原さん...減給って、マジですか?」
「マジ。駄々をこねるな、大学生だろ」
上原と秋山という男性が談笑する中でも、未だに毒々しい液体は男性の顔に垂れ続けます。
何度か上原がその度に男性の顔にバケツをやって掬いますが、何杯も何杯も、貯まり続けます。
「ねぇ、上原さん...じゃなくて、慶一さん...もし、もしも、ですよ。僕が回復したら...」
どうして言い直した?と口から出かけましたが、上原は黙っていました。
その代わり、後ろで大きな爆発音がしました。
商品と瓦礫と、チョコレートの箱が飛び散りました。
それらが地面に落ちたと同時に煙が晴れ、何やら迷彩服を着込み武装した自衛隊のような奴等が数人、姿を現しました。
「我々は!防衛省、自衛隊の災害派遣から来た公認組織の〖|background character《BGC》〗だ!増援に来たぞ!」
そう言って、全員が果敢に床に溢れた毒々しい液体に触れて、
「うわーっ!!」
「動けない~っ!!」
「隊長のバカぁっ!」
「助けてママンっ!!!」
各々が足を取られ、動けなくなり、無力化されました。
その様子を見ていた上原はさらっと無視して、また見ましたが、やっぱりそこにはBGCなる団体が数名、倒れていました。
「上原さん」
ふと、秋山が声をかけて、何かを考えた後に口を開きました。
「やっぱり、減給じゃなくて......“ボーナス”を下さい」
「お前、図々しいな...今の状況、分かってる?」
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ガタガタとした物音が激しく聞こえる。
やがて、その近くを鳥が通って、毒々しい液体が上から飛びかかり、罠にかかったように地面に墜落した。
更に鼠がその液体の匂いにつられてやってきて、飛ばされた毒に行く手を塞がれた。
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一護が先陣を切る形で、霊歌、謎に合流した心寧、柳田の順で通気孔のある部屋を探していました。
「この辺り、物音が激しくないですか?」
「さよか?」
「...なんか水音もするけどね...?」
神妙な顔をした一護と柳田に打って変わって霊歌と心寧が不思議そうな顔をしていました。
その中で心寧だけが何かに気づいたように声を挙げました。
「...そこの、通気孔...」
「いや、そこは水音だね。多分、すぐ隣の...心寧さん、切ってみてくれる?」
「.........」
心寧が嫌そうな顔をして、通気孔の蓋になるファンを勢いよく切る。
中でドロドロとした液体を滴らせる女性とも男性とも言いきれない人物が嗤った。
「あれ......あぁ、見つかっちゃった?」
楽しげにそう言った直後に液体を飛ばし、ちょうど前にいた心寧と柳田にかかる形になる。
飛ばした液体を更に遠くへそのまま飛ばそうとした瞬間に透き通った水で洗い流された。
ついでに柳田がもろ正面にいたので、おまけと言わんばかりに濡れましたが全くもって嬉しくないですね。
「なに、なんかあった!?」
水が入ったのから遅れて空知の声が響きました。
水は来たばかりの鈴から放出されたようで、口元が濡れている。
濡れた口元を拭きながら、鈴が応えた。
「見つけたの」
「マジで?意外と早......え、どこ?」
通気孔の中です。
「何の冗談?マジでどこ?」
通気孔の中です。
「いやいや...」
だから、通気孔の中だっつってんだろ。
「毎度思ってるけど、オリキャラに対する愛が歪_」
直後、空知の頭上に液体が降りかかります。
見ると液体をまた含んだ人物が嗤っていました。
その辺りで霊歌が力んでいる横で何かに守られながら柳田が携帯と口を開きます。
「|毒操《どくそう》|異《こと》...能力は|毒々操術《ポイズンソウジュツ》...まぁ、サポーター向きだね」
液体を飲まないように必死になって、うまく動けない空知を無視して横の霊歌や周りに聞こえるように告げました。
「それ、言うのいいんですけど必要なんですか?」
ちょうど隣の霊歌がそう聞いて、柳田の「必要!」と主張する声が聞こえた。
一方、真逆にいる心寧はずっと毒操を見ていたようで液体ごと切ろうとして刀を振りましたが、跳ねるように刃が通らず、花びらが舞っただけでした。
毒操がそれを笑って毒を広範囲に飛ばし、新たに毒を呑もうとして鞄に頭を殴られました。
「...っえ?」
驚いたのか心寧が振り向いた先に、投げたままのポーズの一護が気まずそうな顔をしていました。
鞄はそこそこ重かったようで頭を抱えた状態で毒操が目に涙を溜めています。
液体は近くから消え、空知は動けるようになりましたが、しばらくの間、全員が毒操の看護に当たっていました。
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空知が少し動かない身体を動かしながら、他の新人や毒操と会話して廊下を先に歩いていました。
後ろにいた柳田と一護の中で、柳田がふと何かに気づいて、
「ねぇ、一護君。そこの林に向かってピースサインしてみてよ」
「...?...何でですか?」
「いいから、いいから。ほら」
柳田に促されるまま、一護が風で揺れる林の中へ向かってピースサインをして_
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林の中で、一護と柳田に向かってデジタルカメラを構える人物が、
しっかりとそのピースサインをしている姿を写しました。
そして、撮れた写真を確認して、
「やるじゃん」
と楽しげに笑って一言だけ呟いた。