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ep.6 先輩と模擬戦闘と。(後半)
後半です。前回を見てない人はそちらから。
「行っちゃいましたね。しかし、穂花さんの『空中移動』はすごいですね。」
シアンは穂花の去っていった方を見つめる。
穂花の特異体質は『空中移動』。その名の通り、空中に空気を圧縮した見えない足場を作り出し、それを乗って移動するものだ。好きなところに足場を作り出せ、慣れていないものはよく落ちるそうだ。そんな難しい特異体質を穂花は難なく使いこなす。そこには血の滲むような努力があってこそのものなのだろう。
「ほのの特異体質すごいやろ。俺の自慢の幼馴染なんやで。」
振り返ると、そこには晴日がいた。
ひゅっと息が詰まる。そこに至るまでの気配がなく、恐ろしく不気味だった。
パァン____
何の前触れもなく銃弾を発射してきた。
その弾が凛都の腕に直撃する。一瞬腕に痛みが走るが、何とか立て直す。
「油断は禁物やで。これが本当の任務やったら、致命傷になりうるで。」
晴日は冷ややかな目で言う。晴日は持ち武器の二丁拳銃のハンドガンを構え、こちらを見定める。静寂な空気に包まれた中でカチリと引き金を構える音が響く。
パァン____
先に引き金を引いたのはシアンだった。
シアンが放った銃弾は初めにしてはあまりにも的確で、まるでどこかで習ったことがあるかのように計算され尽くしていた。
パァン____
シアンの放った銃弾を晴日は銃弾で跳ね返す。まるで神の御業のようだ。
ターン、ターン____
どこからか穂花も応戦してきて、乱戦となる。
2人vs2人でも、穂花と晴日タッグの方が一歩上手で、軽々と銃弾を避ける。
しかし、シアンの放った銃弾が晴日の横腹に直撃した。晴日は一瞬苦悩の表情を浮かべるも、すぐに体勢を立て直す。
「シアン君、意外と銃上手いねんな。どっかで習ってたん?」
晴日は不適な笑みをシアンに向け、銃弾を放つ。
「あなたも知っていると思いますよ。なんせ、あの時僕のところに来たんですからね。」
シアンはひゅっと銃弾を避けた。凛都の知らないシアンがそこにいる。そのことに不快感に覚える。なぜ、凛都には隠し、晴日は全てを知っているのだろう。
パァン____
穂花が放った銃弾が凛都の腹に直撃した。これまでに何度か銃弾が当たっていたので、ふらふらと後ずさる。そのうち、目がぐるぐると回り、その場に倒れ込んだ。
「凛都さん!?大丈夫ですか!」
(シアン、背中を見せては行けない)
意識が朦朧とする中、凛都は心の中でそう思うもシアンには届かず、シアンも銃弾で撃ち抜かれた。その瞬間シアンも倒れた。
そして、2人の負けは確定した。
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目が覚めると、凛都と訓練場の休憩室にいた。シアンはまだ眠っているままだった。
「おはようさん。よぅ、眠っとったで。」
凛都とシアンはソファで、晴日の隣の椅子に腰掛けて眠っていたようで、ふわぁとあくびをする。
「1時間くらい寝てたで。麻酔銃やけん、大丈夫やと思うけど。一応身体に不調はないか確かめてといた方がええで。」
晴日はいつになく、優しく接してくる。気持ち悪いくらいに。
「あと、穂花はもう帰ったで。今から晴日様特製激ウマココア作ったるでー!」
晴日は大分な甘党で、吐き気がするくらい甘々なココアをいつも作る。いらないと言えば、砂糖を足してくる鬼畜なので、断らずに飲むことが最善だ。
晴日は激甘ココアの入ったマグカップをことりと机に置く。
一口、口に入れると、ねっとりとした甘みが口の中で広がる。相変わらず、甘すぎる。ココアに砂糖は|甘党《バカ》のやることだ、と凛都は思う。
「用があるから、もう帰るで。シアンくん置いていったらダメやで。」
そう晴日はほのめかし、帰っていった。
凛都はシアンの方を見ると、シアンはうなされていた。はぁ、はぁ、と息を荒らげながら、顔には涙を浮かばせる。
「母様、父様、ごめんなさい....出来損ないでごめんなさい...」
悪魔を見ているのだろうか。凛都はシアンのことをまだ何も知らない。知っているつもりだった。
凛都はシアンの前髪に触れると少しばかり落ち着きを取り戻す。そのうち、すぅすぅと寝息を立ててぐっすりと眠りにつくだろう。
素性も不明で何も知らないシアンを凛都はいつしか守りたいと、一緒にいたいと思い始めるのであった。