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2-3
少年は自身の異能と対峙する。
そして探偵社員と夜の街を駆け抜けていた。
背後で何が起こっているのか、把握する余裕はない。
でも、運は味方をしてくれたようで少し安心した。
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--- 2-3「少年と自殺の真相」 ---
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ドンッ、という強い衝撃と共に、近くにあった車のボンネットに獣が降り立つ。
霧に遮られて獣の姿は影しか見えない。
けど、しなやかで大きな体と太い四本の脚、弓なりに上がられた尾はどこか見覚えがある。
「悪いね」
獣が降り立った車のそばで、壊れた信号機がバタバタと音を立てている。
僕は腰から拳銃を抜き、素早く撃った。
連続で放たれた三発の銃弾は、獣が降り立った車のガソリンタンクを貫く。
タンクからガソリンが噴き出し、道路へと広がっていく。
ガソリンの引火点はマイナス四十度以下。
静電気などの火花でも容易に引火する。
さらに揮発し、発生したガソリン蒸気の燃焼範囲は広い。
濃度がある程度薄くても燃焼する。
数十センチ離れていたところで、大気より比重の重いガソリン蒸気は下に流れ、燃焼可能な状態で火花と接触可能。
必然で、上記の及ぶ広い範囲で急激な燃焼が起こる。
「逃げるよ」
二人の元に行くと、何故か国木田君もいた。
右腕と左脇腹の二箇所が血で汚れていて、特に左脇腹の傷がひどそうだった。
「ルイスさん、国木田さんが撃たれていて━━!」
「詳しい話は後で聞く」
そう云うと同時に、爆発が起こった。
凄まじい爆発音と共に辺りがオレンジ色に染まる。
熱風が吹き荒れ、橙色の炎と白い煙が広がった。
鏡花ちゃんに敦君のことは任せ、僕は国木田君に肩を貸して一度退いた。
🍎🍏💀🍏🍎
狭い路地には、薄汚れた太いダクトが幾何学模様を描いて天井と壁を入り乱れる。
埃っぽい空気が停滞し、照明もほとんどない。
街の裏側とでも云うべき、暗い場所。
そんな場所を僕達は音を立てて金属質の床を走り、通路の奥のくぐり戸へと進む。
僕が背後を警戒している間に鏡花ちゃん、敦君、国木田君の順で通り抜けた。
全員がくぐり戸を通り終わり、金属で出来た格子状の扉を下ろす。
通路は狭いから、あの獣が来る可能性は低い。
それ以外は、判らないけど。
「……鏡花ちゃん」
僕が言い終わるより前に、彼女は先に走って行った。
そして、国木田君を一度休ませる。
逃げるためとはいえ、重傷を負っている走らせてしまった。
「すみません、助かりました」
「お礼はいらないよ。君と合流できただけで十分だ」
「大丈夫ですか、国木田さん。何があったんです?」
国木田君は呼吸を整えながら云う。
「自分の異能にやられた……」
「……自分の、異能に?」
まぁ、そうだよな。
僕も実際『|鏡の国のアリス《Alice in mirror world》』に襲われてるし。
つまり澁澤龍彦の異能、改め例の霧に触れた異能者から異能が分離する。
取り戻す方法は、何だろうな。
「━━!」
最悪だ。
扉が一瞬で破壊され、その向こうには見知った姿がある。
仮面の顔と白い着物。
長い髪を靡かせた剣の使い手『夜叉白雪』。
その額には見覚えのない赤い結晶が輝いていた。
今、思い返してみるとアリスの額にも同じ結晶があった。
あれを破壊すれば、異能を取り戻せる可能性が高い。
「走れ」
僕がそう云うと同時に、車の急ブレーキ音が聞こえてきた。
進行方向の路地に、一台の車が停まっている。
前後両方の扉が開けっぱなしで、鏡花ちゃんの姿が見えた。
やっぱり考えることは同じか。
とりあえず探偵社に向かうためには“足”が必要だ。
重傷の国木田君も連れ、四人で逃げるための移動方法が。
「国木田君は頼んだよ」
夜叉に向かって発砲するも、斬られてしまった。
そう簡単には壊せないか。
実体があるから蹴りは入るけど、流石に怯ませることはできない。
回し蹴りにして確認してみると、敦君達が車に乗り込むところだった。
前の扉は開いている。
僕は即座に退いて転がり込む。
同時に鏡花ちゃんが車を発進させた。
急発進だったからちゃんと座席に座れず、逆さまになっている。
とりあえず、対処法は判った。
同じ技量のアリスに勝てるかどうかは、判らないけど。
探偵社に着いた少年達は外部と連絡を取ろうとする。
準備を整え、もう一度霧の立ち込める街へと繰り出した。
次回『少年と通信相手』
最後の此方に向けられた言葉で、通信相手が分かった。