公開中
3rd collaboration.4
ルイスside
あれから僕達は、特に意味もなく部屋で待機をしていた。
まぁ、そんなすぐ|首領《ボス》のところに通されるわけはなく。
中也君に軽く説明はしたし、何かしら進展はある筈。
「それで、ボスは暫く医務室に籠りますと」
「…なるほど」
どうしよう。
やることがない。
正確に云うならば、何をしたら良いのか判らない。
「にしても...あの四人、なんか変じゃないですか?」
「たしかに...色々違和感はあったね」
桜月ちゃんの問いに僕も違和感について考える。
上手く云えないけれど、何か矛盾点があるような気がした。
「...絶対に、彼奴らは捕まえよう」
このヨコハマの為にも、テニエルの為にも。
「…勿論です」
此方をまっすぐ見てきた桜月ちゃんに、僕は微笑んだ。
彼女は、いつだって僕に勇気をくれる。
戦うための、勇気を。
「彼らの目的はなんにせよ、このヨコハマを手に入れようとしているなら、やっぱりどう足掻いても探偵社やポートマフィア、それに異能特務課との衝突は避けられないはずだから、多分彼らの協力も仰げると」
「お待たせしました、ルイスさん」
扉が開いたかと思えば、中也君がいる。
「…突っ込まないよ、私はお待たせしてないの?とか、私は突っ込まないよ」
「桜月ちゃん、それを云ってる時点で多分突っ込んでると思う」
可愛いなぁ…。
何か和む。
「えっ、そうなんですか!?」
「…桜月、手前は後で覚えてろよ、それとルイスさん、」
--- 「首領との面会許可が下りたので一緒に着いて来て貰えますか?」 ---
「…ありがとう、勿論着いて行くよ」
立ち上がろうとすると、桜月ちゃんから何やら聞こえてくる。
..私は激怒した。
必ず、かの部下想いで重力使いのポートマフィア幹部を問い詰めなければならぬと決意した。
私には彼の心はわからぬ。
私は、ただのポートマフィア幹部である。
任務を遂行し、奇獣と遊んで(?)暮らして来た。
けれども人の心には人一倍敏感であった。
「ねぇ何でさっきから私の事スルーするの⁉扱いが太宰さん並みな気がしてすっごく嫌」
「その前に今の文章軍は何なんだよ」
「何か凄い走りだしそうな雰囲気があったよ?」
本当に可愛い(二回目)。
というか、今の台詞聞いたことがあるような。
否、何処かで見たことのあるような──そんな気がする。
「今のの元ネタはこの前太宰さんが云ってた寝言らしいもの...です。敦君から聞きました」
「…あ、あァ、そうか、」
「…なんか、思ってた以上に、うん、凄い理由だったね」
僕も探偵社で聞いたのかもしれない。
「じゃなくて!!中也、何でさっきから私の事完全スルーしようとしてたの⁉流石におかしいと思うんですけど」
「慥かに、呼びかけの名前にはずっと桜月ちゃんが入ってなかった」
「…そう云えば、慥かに…」
ジト、と見つめる桜月ちゃん。
可愛い(三回目)。
流石に観念したのか、中也君は溜息を吐いていた。
「手前は後で首領から話があるそうだ、あとボスのことについて少し聞きたいことがあるらしい」
「ぇ、?じゃあ今から首領室に行くのはルイスさんと中也だけで、私は居残りってこと?」
えー。
僕だけ行くの?
嫌な予感がするから、出来れば桜月ちゃん連れていきたいんだけど。
ちゃんと此方の森さんに会ったことないから困るんだけど。
でも、そんな子供みたいなことは云っていられない。
処刑されそうならさっさと逃げればいい。
拷問されそうなら、逆に|異能空間《ワンダーランド》に捕らえればいい。
いや、|異能空間《ワンダーランド》送りは問題になるからやっぱりやめておこう。
「…桜月ちゃん、頼んだよ」
「…ルイスさん、頼みました」
中也君が開けてくれた扉を抜け、ふと振り返る。
若干顔が青ざめている桜月ちゃんに何か声を掛けようかとも思ったが、止めておいた。
そっとしておくのが、一番な気がする。
「ルイスさん、此処で武器とかを預からせてもらいます」
「僕、預けても意味がない気がするんだけど……」
「あの、形式的なものなんで……黒服もいるんで一応お願いします」
仕方ない、と僕はいつも懐に忍ばせている銃を取り出した。
残念ながら人を殺すことはできないから、持っていても特に意味はないけれど。
「……遠い」
相変わらずポートマフィア|首領《ボス》のところへ行くまでの道のりは長い。
無駄話をするわけにもいかず、殆ど話すことなく執務室へ着いた。
「|首領《ボス》、中原です」
「入りたまえ」
「失礼します」
扉を開くなり、奥に座っている森さんと目が合う。
「初めまして。桜月ちゃんから色々と噂は聞いているよ」
「良い噂なことを願います」
「アリスモチーフのロリータ服が凄く似合っていたらしいね」
ちょっと待てやゴラァ((
…ゴホン
思わずツッコミを入れそうになってしまった。
「自己紹介が遅れました。ルイス・キャロルと申します」
「ポートマフィア|首領《ボス》、森鴎外だ。早速で悪いけれど色々と話をしようか」
「……。」
思い出すのは此方の森鴎外の姿。
--- 「君があの戦神だね。さて、色々と話をしようか」 ---
《《また》》試されることになるとはね。
何処まで話が通じてるのかが判らない。
それなら──。
「──僕が此方の世界に来た経緯とか如何でしょうか」
「テニエルの異能じゃねぇのか?」
「まぁ、簡略化するならその通りなんだけど……」
正確にはテニエルの異能が強制発動させられた。
そのせいで僕は敵のアジトであろう場所へと着いてしまい、即戦闘。
「よく無事に脱出できたね」
「……まぁ、ある程度の死線は潜り抜けてきているので」
「その年齢なら大戦は経験していなさそうだけどね」
幼い、と遠回りに云われているのだろう。
確かに僕は見た目が子供だからなぁ。
中也君よりは身長ある筈だけど。
「まぁ、そんなこんなで桜月ちゃん達と合流して敵の目的を聞きました。簡単に云うなら“ヨコハマを手中に納めたい”そうです」
「……。」
「テニエルの元仲間──えっと、過去いた組織は普通に海外のもので、彼は|ポトマ《此処》でいう幹部位置でした。なのでテニエルを連れ戻すのも目的のひとつ。ついでに云うと、その組織の人数はポートマフィアを凌駕するほどかもしれない」
「……それは、すげぇな。そんな組織があったならもっと有名でも良い気がするが」
「異能力者とは戦闘してませんが、普通の兵士は英国軍の一般兵とそう変わらないかと」
後は何かあったかなぁ、と僕は思考を巡らせる。
「一つ……否、二つほど良いかな?」
「……何でしょう」
「何故、君はそれほどまでに敵の事情について詳しい?」
「テニエルの情報提供。加えて、敵がペラペラと喋ってくれたので」
これは、ミスったかな。
「それじゃあ二つ目だ」
久しぶりの、冷や汗が流れる感覚。
何処で間違えたのだろうか。
「彼はどちらの味方かな? 勿論、君の主観で構わないよ」
「テニエルは……」
どちらの味方とか、そんなの判るわけがない。
彼は今の家族と、本当の家族との間で揺れている。
何となく、そんな気がした。
「──判りません」
「……!」
「ただ、幹部である泉桜月を殺そうとしたにも関わらず、温かく迎え入れてくれたポートマフィアへの恩を仇で返すような──そんな男ではありません」
まっすぐ、彼の瞳を見て僕は云う。
森さんは少し目を伏せてから、顔を上げた。
「私は──」
言葉の続きを掻き消すかのように、嫌な音が響き渡った。
僕の世界と同じなら──。
「警告音……!? 一体何があったんだ!」
確認してきます、と中也君は執務室の扉を勢いよく抜けた。
森さんと二人きりになり、中々気まずい。
どうしようかと思っていると、声が聞こえた。
『ルイス』
「……。」
『桜月ちゃんからメールよ』
--- __其方はどういう状況ですか?私はここから出ます。詳しい話はあとで。 ---
『どうする?』
桜月ちゃんに襲撃、かなぁ。
というか、携帯を|異能空間《ワンダーランド》に入れっぱなしだった。
森さんの前だから大声で返事をするわけにもいかないし──。
「──連絡、取ってもらえる?」
そう、小さく呟くことにしておいた。